2章 秘密の部屋②
ノエルの言葉にエミリエは顔をあげて笑顔見せた。今しかないと思ってエリックはは話題を変える。
「さて、書斎の怪しい所を見せてもらえますか?」
「はい。こちらです」
4人は奥の書斎へ向かう。最初通った廊下から見て円柱形の空間を通って右に曲がり、左側の一番奥の部屋が書斎となっている。書斎の前まで来てエミリエが間取り図を持って話し始める。
「この間取り図ですと書斎になっているこの部屋は建物の角まで一つの部屋となっています。しかし…」
察したようにセレンが書斎の扉を開けて3人を中に通す。
「奥の壁が随分手前にあります」
エミリエは奥の壁を指差す。なるほど、とエリックが呟いた。おおよそ4分の1程部屋が小さくなっているように思える。
書斎は長方形をしている。扉から入って正面机が一つ。右手に広がる空間には壁に沿ってコの字に本棚が設置されている。
早速一番怪しい奥へ向かおうとするエリックをノエルが引き止める。
「呪いについて書かれていたというものを見せてはもらえないだろうか?」
エリックがエミリエの方を見る。エミリエは机の方へ向かい、机の引き出しを開けて一冊の本を取り出す。
「この本、でしたよね?」
エリックに窺うように尋ねた。そのはずです、とエリック。
ノエルは受け取って中を見ていく。そこには確かに呪いについて書かれていた。日記のような形式でエミリエの父、ジェイコブの苦悩と焦りが書き連ねてあった。
呪いを信じず妻を失った後悔。
自分の体調への不安。
娘が先立つ悪夢。
好転しない状況へのもどかしさと焦り。
恨み言のようにつらつらと生々しく心情が吐露されている。これをエミリエが読んだのであればさぞ呪いが恐れたであろうと容易に想像ができる。
ノエルが日記を読んでいる間にエリックは奥の本棚を調べ始めていた。この先に何かあるならこの本棚に何か仕掛けがあるのだろうと予想した。エリックは右側から順に注意深く本棚を観察していく。
4つ並ぶ本棚の右から3番目と4番目、足下の枠に傷がついている。ここが動くのではと当たりをつけて探る。
しかし床に引きずったような跡はついていない。見当違いなのかもしくは…。
(魔術の出番だ)
エリックは指先に弱く魔力を纏わせ本棚に触れる。魔力の痕跡、仕込まれた魔術を見つけ出すためだ。それはすぐに見つかった。睨んだ通り、3番目の本棚に魔術が仕込まれていた。
早速起動しようと辺りを見渡す。ちょうどノエルが日記を読み終えこちらに来たところだった。
「離れてください。本棚に魔術が仕込まれています。おそらく本棚が動きます」
まあ、とエミリエが後ろで声を上げる。そのあとすぐに離れていく足音がした。
念の為、ゆっくりと魔力を込めていく。ちらりと振り返れば全員が入口付近まで下がっている。エリックは思わず苦笑いを浮かべてしまう。
本棚がゆっくりと動き始めた。手前に左開きの扉のように本棚が動き、奥から真っ暗な空間が現れる。
そう動くのか、と言ったノエルの声に内心同意する。
「本当に隠し部屋が…」
エミリエが声を振るわせ驚いている。
「まずは私が入ります」
エリックが手のひらから小さな炎を出すと真っ暗な隠し部屋がぽうっと明るくなる。
「便利だな」
ノエルが言う。
「そう見えるかい?」
「ああ、魔術に興味が出た」
「この程度でもすんなりと使えるのはほんの一握りの魔術師だけなんだよ」
「そうなのか…」
話を切り上げて中に踏み込む。中は埃っぽく、ジメジメとした匂いがする。本棚が3つと机が一つ。机の上には燭台があった。エリックは蝋燭に火を灯す。
その燭台を持って本棚を照らしていく。何冊か手に取ってみるとやはり魔術書の類。
「ここに呪いを解く方法があるのですか?」
「残念ながらないでしょう。もしあるのならとっくに解かれているでしょうから」
そうですよね、と残念そうにエミリエ。
「ですが手掛かりはあるかもしれません」
エリックは書斎の方を覗く。
「エミリエさん、ここの本を精査したいのですが書斎の方の空いている場所をお借りしてもよろしいですか?」
「ええ、もちろんです。お使いください」
許可をとったエリックは鞄から手袋を二組とシーツのような白い布を取り出す。エリックは手際よく布を広げ、書斎の床に敷く。
「ノエル、本を運び出すのを手伝ってくれ」
手袋を一組渡しながら頼む。
「構わない。あの布の上に並べればいいのか?」
「ひとまず積んでくれればいい。崩れない程度に。それともし状態の悪い本があれば触らずに置いておいてくれ」
わかった、と作業に取り掛かるノエル。
「しばらく作業になりますのでよければお二人はお休みになってください」
エリックの気遣いにエミリエとセレンは顔を見合わせ
「ありがとうございます。そうさせていただきます。何かあればお声がけください。大広間、この屋敷の入り口から入って正面の部屋に私はおりますので」
そう言って2人は退室していく。
「エリック、この本運ぶのはいいがまさか全部読む気か?」
「まさか。仕分けして中を改める必要がないものは飛ばすよ」
大変そうだな、と他人事のように言うノエル。
「まあ仕方ないさ。これも仕事だ」
そう言って肩を竦め、エリックも作業に取り掛かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます