2章 秘密の部屋①

 エミリエは可愛らしい女性だった。スラっとすた細身に伸ばした銀髪。何より目を引いたのは服装だった。チェックのジャケットにブラウンのパンツ。勝手にドレスだと想像していたので驚いてしまった。


「お忙しいところお時間をいただきありがとうございます。彼、ノエルは私が懇意にしている探偵です」


 エリックの紹介にノエルは、よろしくお願いします、と頭を下げる。


「それで早速ですが以前お願いしていたものを見せていただきたいのですが」


「はい、調べ終わってますよ」


 エミリエが後ろに控えるセレンに目配せをする。

セレンは2枚の資料をエリックの前にスッと差し出す。


「こちらがこの屋敷の間取り図、こっちが先代たちの資料です」


 ありがとうございます、と言ってエリックは間取り図を手に取る。ノエルはもう一枚の方の資料を手に取る。


「あの、なぜ間取り図が必要なのでしょうか?」


 エミリエが窺うように尋ねるとエリックは得意げに


「思いつきだったんですがね。どこかに隠し部屋があるのではないかと思いまして。間取り図と実際の部屋を見比べてみようかと」


と言う。


 それを聞いたエミリエが考えるような仕草を見せる。


「それなら、心当たりがあります」


「本当ですか?それはどこでしょか」


 エミリエは間取り図に指を指す。


「ここです。建物の角まで一つの部屋になっていますがもう少し小さい気がします」


「なるほど、確か…」


「父の書斎です」


 エリックはにこりと笑う。


「何かあるかもしれませんね。調べてみましょう。ですがその前にこっちですね」


 エリックがもう一つの資料をノエルから受け取る。


「そちらの資料はわかる範囲の先代の名前と亡くなった歳だけなのですがよかったのでしょうか」


エミリエが不安げに尋ねる。


「ええ、ひとまずは。また何か調べていただくかもしれませんが」


そう言ってエリックは資料に目を通す。


モールド家 名前と没年


スクアール 66歳


レイモンド 55歳

ドレンダ 56歳


コールフォン 42歳

ローレリー 54歳


ランディ 44歳

キャシー 43歳


ジェイコブ 42歳

ヒルダ 39歳



 なるほど、とエリックが呟く。


「ノエル、どう思う?」


 漠然とした質問を投げかけてみる。ノエルは再度資料を受け取り、顎に手を当てて資料を睨む。それからすぐに一息つけるように眼鏡を外してテーブルに置いた。


「その前にいくつか質問させていただいてもよろしいですか?」


「はい、何でも聞いてください」


「ではまず確認ですがこの資料は上の方が年代が古く、下の方が新しいで間違いないですか?」


「はい。すみません、分かりづらくて…」


 ノエルは手を振って否定する。


「スクアールさん以前はわからなかったのですか?」


「実はこのお屋敷を買ったのがスクアールなのです。それ以前はこの街に住んでいなかったようですぐには調べられなかったのです」


 申し訳なさそうにエミリエが頭を下げる。それを見てエリックがすかさずフォローを入れる。


「気にしないでください。無理を言ったのは私ですから。短い時間で調べていただけただけでもありがたいです」


「スクアールさんがこのお屋敷を購入されたのはいつ頃でしょう?」


 フォローを入れるエリックの事などお構いなしにノエルは質問を続ける。


「ええと確か亡くなる5年程前のはずです」


 また、ノエルは顎に手を当て考え始める。テーブルに置いた眼鏡をかけ直し、また尋ねる。


「大変失礼かと思いますが皆さんの死因などはお分かりでしょうか」


 エミリエはかぶりをふる。


「申し訳ありません、私が知っているのは自室で倒れた父と病で亡くなった母だけです。祖父と祖母も病気だったとは聞いていますが詳しくは…。父ついてはエリック様の方が詳しいかと」


「ありがとうございます。嫌な事を聞いて申し訳ありません」


ノエルは頭を下げる。


「いいえ、私がお願いした事ですから…」


エミリエは話しながら俯いていく。


「あの!」


エミリエは意を決したように声を上げる。


「やっぱり私は呪われているのでしょうか。この資料を見ていると私も早くに死んでしまうのかと恐ろしくて…」


 エミリエの顔は青ざめている。どう言葉をかけるべきだろうか、とエリックは悩む。ノエルならなんと言うのだろう。横目でちらりと見てみるが相変わらず考え込んだままだ。


 必ず呪いの正体を暴きます、などと無責任なことは言えない。かと言って、そんな事ありませんよ、と言ってもなんの慰めにもならないだろう。


 これ以上の沈黙は許されない。エリックが何とか言葉を紡ごうとした時だった。


「私は呪いの正体を探るためにここに来たのです。全力を尽くしますのでエミリエさんもご協力いただけますか?」


 ノエルはそう言って笑顔をみせた。

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