第25話 矢口高雄『釣りバカたち』

矢口高雄の短編集『釣りバカたち』を読んでいる。

2巻の「カジカの想い出」がいい。

カジカの夜突きは日本の夏の風物詩で、ガラスをはめた舟形の箱めがねを水面に浮かべ、カンテラ(携帯用の石油灯)の光で川底を照らしながら箱めがねをのぞき込み、ヤスでカジカを突くという漁法である。

それを描いた見開きの絵がすばらしい。

少年と父親が夜の川で田植えのように腰を折り、川底を熱心にのぞき込んでいる。

カンテラの光が幻想的で、真夏の夜の夢のような絵なのだ。

川が汚れた今となってはカジカの夜突きはもうできない。

つまり本当に夢となった日本の風景が、この二頁に封じ込められている。

それが読者の胸を郷愁でかきむしるのである。

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