第5話 ひとだま

子どもの頃の記憶である。

夏の夕刻、祖母が営む文房具店の店先で憩っていた。

あやしい雲行きで、もうすぐ夕立がきそうだと思っていると

「こんなときひとだまが出る」

と祖母がいった。

すると店に本当にひとだまが入ってきた。

ひとだまは床を這うように低くふらふら飛ぶと、不意に消えた。

熱さや匂いはなかった。

薄いオレンジ色のひとだまだった。

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