Ep.14 その後の女たち
今回の事の顛末について、僕は語ろう。
鹿嶋は本当に女にモテるのだ。
というのも、一度はブロックされた恋人たちからまた連絡が来たらしい。
「アミちゃんは今、乙女ゲーにハマってるんだって。熱中できることができてよかったよ。アミちゃん、趣味とか特になかったみたいだし」
それはあれだろ。お前に弄ばれて現実の男は懲り懲りになったんだろ。
二次元の男なら振られることも浮気されることもないし、これ以上にいい恋人もいないだろう。
「アカリちゃんは、偏差値もうちょい高い高校狙うらしい。夏休みはずっと家に籠って勉強するんだと」
そうだなその方が賢明だ。うちは偏差値的にも自称進学校とすら呼べないくらいのレベルだし、そのアカリとやらには頑張ってほしいものだ。
「チカちゃんは同い年の男子たちに告白されまくってるみたいで、結構大変なんだって」
高校生の彼氏と別れて同級生からのハードルが下がったか。まあ、小学生のうちはそっちの方がいいだろうな。
「アイちゃんは今部活に熱中できてるみたいで、今度大会出るんだって。俺招待された。継路たちも来いよ」
それは何より。青春を謳歌してるじゃないか。せっかくだし、僕達も応援に行ってやるか。
「エリカちゃんと惟斗、両親が復縁してまた一緒に住めるようになったらしい。これはまあ、エリカちゃんじゃなくて惟斗から聞いた話だけど」
良かったじゃないか。町村、見た感じかなり妹思いだったし、一緒に住めるほうがいいだろう。
「キララちゃんは新しい彼氏ができて、俺とはもう連絡取れないらしいけど、相手は同じ学校の幼馴染らしいから安心だ」
こっちはこっちでいい感じに新しい恋を始めたんだな。鹿嶋と付き合うよりはよっぽど有意義だ。
「……つまり、みんな黒江くんと別れて幸せになったってことね」
「俺が疫病神みたいな言い方はやめてほしいな」
「実際そうでしょ?」
そう新堂に言われた鹿嶋は反論できなくなり、黙り込んでしまった。
「ただ一つ気になるのが、シノのことなんだよな……」
「シノって、社会人の?」
「そう。俺のことは遊びだったって言うし……でも、2年前から付き合っててそれはなくない?」
「つまり、2年前から遊びだったんでしょ。分かる。私もあるから、そういう経験」
「ちゃんと仕事頑張れてるかな……前に会った時は、仕事辛そうだったから……」
鹿嶋はシノが幸せかどうかを気にしているらしい。遊びだったことについては、きっとそこまで気にしてないのだろう。
「LINEはブロックされたままなのか?」
「ブロックっていうか、既読無視されてるんだよ」
「もう関わってくるなって意味じゃなくて?」
新堂がさっきから鹿嶋に対して辛辣だ。鹿嶋はもう今にも泣きそうになっている。
「あー……会いたいな……」
僕達は鹿嶋を慰めるため、放課後カラオケに行くことになった。
「ただ君に会いたくて〜」
「優しくその胸で包みこんでほしい」
鹿嶋が失恋ソングばっかり入れるから空気が重い。
もう半分くらい泣きそうな声で歌うからこっちまで辛くなってくるじゃないか。
「流石に7人分の失恋は重い……」
「もう私、失恋ソングお腹いっぱいなんだけど……」
このあとも5曲くらい失恋ソングが待っている。ちなみにもうカラオケに入って2時間経っているが、そのほとんどの時間が鹿嶋が歌っている時間だ。
そろそろやめさせないと鹿嶋の声が枯れるかもしれない。
「ねえねえ、継路くん」
「何?」
新堂がデン◯クを僕に見せて、小声で言った。
「これ歌って」
新堂が見せてきた画面に映っているのは、未来に向けての明るい応援ソング。
「新堂さんが歌いなよ」
「キー低いから嫌。継路くんこの曲知ってるでしょ?」
「……まあ」
「じゃあ、お願いね」
そう言って新堂は僕の返事を聞かぬまま、その曲を割込で次の曲にした。
「次は継路か。頼んだぞ!」
なんで僕が歌わなきゃいけないんだ。僕、歌は苦手なんだぞ!
「どんなときも〜生きることをやめないで〜」
おい鹿嶋そのマラカスはどこから持ってきた。恥ずかしくなるからやめろ。
歌い終わると、二人が拍手してくれた。鹿嶋の涙はすっかり引っ込み、失恋ソングを全部予約取り消しした。
「じゃあ継路、次俺とデュエット頼んだ!」
「はあ!?」
そうして僕たちは鹿嶋が満足するまで歌い尽くし、カラオケ店を出た。
「声が出ねえ」
「そりゃあれだけ歌ったらそうでしょうよ」
疲れた……僕も大して歌ってはいないが、声がろくに出る気がしない。
「……あれ!」
鹿嶋が僕たちを無理やり引っ張り込んで、電柱の陰に隠れた。
「なに?」
「痛い……」
「……シノちゃんだ」
鹿嶋が指す方には、鹿嶋の元カノ、シノがいた。
「へえ、男といる。しかもあれ……恋人繋ぎじゃない?」
「……良かった」
鹿嶋を見ると、涙が頬を伝って、笑っていた。
「本命、ちゃんといたんだ」
そのままシノと男は店に入っていき、姿が見えなくなった。
「ああ、良かった……」
「黒江くん……」
鹿嶋は、本当に彼女たちの幸せを願っていたのだと思う。そうじゃなきゃ、あんな涙は流せない。
「……帰ろう、黒江」
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