Ep.10 7股男の説得結果

僕と新堂は、1週間後の日曜日に鹿嶋と再び、僕の家で勉強会を開いた。鹿嶋の成績は新堂よりはマシだったが、中々いいものではなかった。


「この3科目が悪すぎる……」


数学と英語が赤点じゃねえか。こいつらはどうしてこうも点数が悪いんだ。


「大丈夫、ほかは60点以上だから」

「……本当か?」

「保健体育は89点!」

「お前もか!?」


今確信した。新堂と鹿嶋は性別こそ違えど、同類だ。


「私も保健は良かったの。仲間ね」

「イエーイ」

「わーい」


ハイタッチすんな勉強するぞ。まずは二人が両方駄目な、数学から手をつけよう。


「ここの問題はそもそも二人共、使う公式を間違えてる。教科書52ページの……」


2人は集中して問題を解いている。この様子だと、地頭が悪いというよりは最初から授業を聞いていないタイプだな。まあ、担当が桜庭だったから仕方ないか。


「できた!」

「俺も。有栖川の説明すげー分かりやすいな」

「それはどうも」

「有栖川って数学の点高いの?」

「あー……」


これ、本当のこと言っていいのか?いや駄目だな。鹿嶋にバレたらあっという間にクラスで面倒なことになる。


「78点」

「おお、そこそこ」

「僕の点なんてどうでもいい。はい、次」


これなら順調にこの前の試験範囲を復習できる。そう、思っていたのだが。


「飽きたー」

「数学ってほんと、つまんない……」


ペン回しを始める鹿嶋。欠伸をして横になろうとする新堂。


「……まだ始めて30分しか経ってない」

「マジ?」

「マジだ」


しかし、一度休憩させたほうがいいのかもしれない。来客なんて滅多にないからジュースは用意してないが、まあコーラでいいだろう。


「ちょっと休むか」

「あ、じゃあ聞いてほしい話があるんだけど」

「……何?」

「こないだの説得結果。聞けよ」


僕は立ち上がろうとしたが、鹿嶋の語気に圧倒されて座り直した。


「分かったよ」

「で、どうだったの?成功した?」

「……失敗した」


鹿嶋が話すには、一日かけて一人ずつ説得したらしい。



まず一日目、キララ。


「……もしさ、俺に他に彼女がいたらさ……どうする?」


もうその質問が置きに行ってるとしか思えないのだが、ここには突っ込まないことにしよう。


「……あたしじゃ駄目だったんだな、って思う」

「いや、それでもキララのことも愛してるの。ただ、他の子も同じように好きってだけ」

「浮気……したの」

「だから、浮気じゃ、なくて」


鹿嶋が話そうとした途端、キララは泣き出してしまったらしい。


「やっぱ……あたしは黒江のこと、満足させられなかったんだ。あたし、見た目ばっか気張っちゃってつまんない女だもんね」

「そんなことない!!」


そこから黒江の理想を語って、キララは泣き止んだ。そして、最後に言ったという。


「ごめん……あたしには耐えられない。黒江には、あたしだけを見てて欲しい。それができないなら……別れよう」



「ってな、感じで。あとのみんなも、割とそんな風の反応だった。新堂は正しかったよ。やっぱ普通は、そうなんだな」

「黒江くん……」

「一夫多妻制が成立していた時代もあるにはある。だが、それは恋愛結婚が一般的でなかった時代の話だ。僕は最初から、鹿嶋の理想は叶わないと思ってたけどな」

「いや、俺は諦めてない」

「黒江くん、分かってないの?」


鹿嶋は首を横に振って、言った。


「認めてくれる子だけを最初から彼女にするんだ。有栖川言ってたよな?同意を取っているなら、って」

「言ったな」

「だから、ここからやり直す。人生、まだまだ時間あるし」

「……私はもう、止めない。そういうことをしている人も、現実にいるみたいだし」

「僕も止めない。……まあ、頑張れ」


それはそれとして、鹿嶋には言わなければいけないことがある。


「次彼女作るなら、もうちょっと勉強してからのほうがいいと思う」

「……どういうこと?」

「頭よくなければ女に相手にされないぞ」

「童貞には言われたかねえな」

「いいから勉強しろ」


鹿嶋にペンを握らせ、勉強会は続行した。

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