Ep.7 変態教師のその後
僕は生徒指導室から出てきた新堂に、事の顛末を聞かされることとなった。
「……はい、これ借りてたカバン」
「ありがとう」
いつも通り階段裏で、僕らは話すことにした。新堂は以前呼び出されたときよりはシュンとした様子はなく、しかし疲れているようだった。
「昨日といい今日といい、何回同じ説明をさせられたのか……」
「事情聴取、か」
「そう。本当、疲れちゃった」
大きなため息をついて新堂は僕の隣に座り込んだ。
眼鏡の奥でいつも光っていた彼女の目は、今は完全に死んでいると言えよう。
「そんなところ悪いんだけど、僕にも聞かせてくれるかな。あのあとどうなったのか」
後にして、なんて答えが返ってくるのかと思ったが、彼女は思ったよりも快く、
「いいよ」
なんて答えた。僕が呆気にとられている間に、彼女は続けた。
「継路くんには、ありのままを語れるから。それに、大して長くならないと思う」
新堂はため息をついて僕の隣に座り、語りだした。
「これでもう大丈夫。警察は呼んだよ」
駅員がそう言うので、新堂は安心したように駅員にお礼を述べたという。
「いやいや。勇気を出してここに来てくれてありがとう。怖かったでしょ?」
「あの……無理やり連れて行かれそうになったのは私じゃなくて、別の女の子なんですけど……って、あれ?」
新堂がわざとらしく、僕がさっきまでいたところを見た。当然そこには”被害に遭っていた女の子”の姿など無く、当の本人である僕は公園で化けの皮を剥がしていた。
「いない……」
「その子は友達じゃないの?」
「いえ、そこでたまたま見かけた子です」
僕の素性については上手く誤魔化してくれたらしく、駅員もそれ以上は聞いてこなかったらしい。
「とにかく、ここで待っていて。もうすぐ警察が来るから」
「はい!」
新堂は窓の外を見ながら、警察が来るのを待っていたという。
そこに息も絶え絶えの桜庭がやってきたのを見て、声を張り上げて新堂は指を指した。
「あの人です!」
僕を探してやってきた桜庭だったが、駅員に取り押さえられて、すぐに駆けつけた警察に引き渡されたらしい。
当たり前の流れとして、新堂は警察に事情聴取をされた。
そして繁華街にいた理由、桜庭が僕を無理やりホテルに連れ込もうとしたのを見たことを話した。
そうしても僕の正体に関することは一切口を割らず、知らない女の子が危険な目に遭いそうだったので助けただけ、としてくれたらしい。
「ありがとう」
「お礼を言われるようなことじゃない。あの女の子が継路くんだってバレたら、私達が桜庭を嵌めたみたいになるから」
実際そうな気がするが、僕は黙っておいた。今からでも彼女は僕の正体を警察や学校に明かすことができるのだから。
「それで、全く同じことを生徒指導室でもさっき説明してきたの。矛盾が生まれないようにしなきゃいけなかったから、本当に大変だった」
「お疲れ様」
「継路くん、絶対に誰にも、昨日のこと言わないでね」
「言わないよ!」
僕の名誉にも関わるしな。
「私の努力を無駄にしたら、許さないから!」
「はいはい」
「はいは一回でしょ!?」
新堂は拗ねてどこかに行ってしまう……のかと思いきや、振り返って僕に言った。
「またこんなことがあったら、よろしくね。継路くん」
「……こんなこと、もうないと思うけど」
僕は去っていく新堂を見て、本当にこんなことが二度とないように祈るのだった。
そして、桜庭がどうなったのかと言うと。
桜庭は次の日から学校を休んだ。体調不良とされ、最初は女子たちが悲鳴を上げ心配した。
しかしその間にどこからか情報は当然漏れ、人の口に戸は立てられない。桜庭が強制わいせつ未遂で捕まったことは一週間と立たずに広まった。
「聞いた?桜庭先生のこと」
「マジヤバいよね。なんとかわいせつで……」
「そんな人じゃないと思ってたのに。キモいよね」
人間は例外なく残酷だ。故に、手のひら返しも早い。桜庭は間もなく、自主退職した。
ちなみに萩野のほうは転勤になったらしい。いや普通こっちもやめるだろ。
まあ、生徒からハゲノと言われても平気そうな顔をしていたので、メンタルは強いのだろう。
こんな感じで、今回の事態は収束したのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます