Ep.2 三つ編み眼鏡のP活女子(1)
「昨日見たこと、絶対に誰にも言わないで!」
「……え?」
昨日?僕は昨日新堂とは交流がなかったし、というか今まで一度も接点なんて無かった筈だ。
新堂は必死そうな表情を浮かべ、僕を拘束する。
「お金ならいくらでも払う。だから、絶対にチクったりしないで!」
「……金?」
「なんなら今ここで一万円出すから……」
そう言って新堂はポケットから財布を取り出し、一万円札を取り出した。
「いらないって。だから、何の話?」
「とぼけたって無駄。あのとき、目が合ったでしょ!?」
目が合った?いつ。僕にはさっぱり分からないが、この様子じゃ新堂は話を聞いてくれそうにない。
ずい、と顔を寄せられ、新堂の目を真正面から見ることになった。
そしてようやく、彼女の正体に気がついた。
「ああ、パパ活!」
それなら彼女の行動にも
「言わないで!」
「昨日のは新堂さんだったのか……」
「そうよ、私。というか、気づいてたから私のことあんなに見てたんじゃないの?」
「いや、正直こうして話すまで気が付かなかった」
すると新堂は顔を赤らめ、僕から離れた。
「私が自意識過剰だった、ってこと……?」
「そういうことになる」
「そんな……どうしよう、私……」
新堂は僕の顔をチラリと見て、それから言った。
「ここで継路くんを口封じするしか……」
「ちょっと待った」
絶対ロクな手段じゃないだろそれ。僕はこれから何されるっていうんだ。
「僕は誰にも言わないって言ってるじゃないか。だから一旦落ち着いて、その札と物騒な思考をしまってくれない?」
「……生徒指導にチクらないの?」
「僕に何の得があるの、それ」
僕だって詳しく事情を聞かれることは容易に想像がつくし、第一僕は新堂にそこまで興味がない。利点のないことをわざわざするほど僕は暇じゃないんだ。
「……じゃあ、私の行動を止める気は?」
「ない。だってパパ活なんて、元々リスクのある行為じゃないか。わざわざそんなことをするってことは、それ相応の理由とリスクを負う覚悟があるってことでしょ。僕は新堂さんに説教できるような立場じゃないし、新堂さんだって僕に言われてやめる程度の覚悟でやってないだろうし」
「それはそう」
あっさりと新堂は認めた。そして、先程までの慌てようからは想像もつかないくらい平然と言った。
「継路くんには何も分からないってこと、分かってくれてるみたいで助かった。今私、見られたのが継路くんで良かったとすら思ってる」
「まあ、あの姿じゃ普通は新堂さんだって分からないよ。だから、知り合いに見られても今回みたいなことはせず、堂々としてればいいと思う」
「……そうだよね」
俯いていた新堂が顔を上げ、満面の笑みで言う。
「私の完璧な変装が、バレるわけない!!」
……なんだこいつ。開き直りが酷い。
「普段の擬態もしっかりしてるし、そんなことはありえない」
「えーと……新堂さん。僕もう戻って良い?」
「もちろん。ごめんね、継路くん」
「じゃあ、これで。……パパ活、バレないように、気をつけなよ」
「当然。次からは、もっとうまくやるわ」
ドヤ顔の新堂を置いて、僕は教室に戻った。
その後、新堂が生徒指導室に呼び出されたのは数日も経たないことだった。
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