第19話 アンナの意見 ヨウヘイの考え

 私はあの子を許せない。


 あの子が居たからカイトは死んだし、挙げ句にカイトの全部を奪ったんだ。これは略奪と変わらないだろ。この結果に持って行ったのはカイト自身だけど、それでも、あの子はそれを拒否すべきだった。


 あの子がカイトの名前でのうのうと生活している所を考えるだけで反吐が出るし、何ならぶっ殺してやりたいくらいだ。

 でも、あの子が何故カイトの名前を名乗り続けているのかを知っているから、無碍にする事も私には出来ない。


 あの子は自分の代わりに死んだカイトの為に、カイトであり続ける事を選んだんだ。本当なら今も生きていた時間を、あの子が自分で繋ごうとしている。何もかもをカイトである為に、男口調で話して衣服も男物。


 カイトはバイクに乗ってたから、本来の年齢が追いついて無いのにバイクを乗り回して、少しでもカイトに近づこうと躍起になっている。煙草だってそうだ。カイトが吸ってたからって、無理に吸ってすぐに体調を悪くする。


 あの子がカイトである為に、自分ってモノを捨てて生きている事は重々承知しているけど、やっぱり私にとってあの子はカイトを殺した奴でしか無いんだ。


 だけど、あの子からカイトである事を取り上げると、あの子は生きる意味が無くなる。自分に人生をくれた人間の為に、全部をつぎ込んでいるあの子には、カイトで無くなる事は死んだも同然なんだ。それはカイトの意志に反するし、カイトを無駄死にさせる事と同じになる。


 私はあの子を何があっても許さない。だけど、認めないとカイトの行動が無駄になる。

 だから難しい。だから何も出来ない。


 私の意見が採用されれば、あの子は確実に死んでしまう。カイトを裏切る行為だけど、これでカイトはやっと休めるんだ。いつまでも死んだ人間を生かしておくなんて、死者を愚弄しているだけなんだ。


 本来あの子は死んでいた。だったらいっそその通りになるべきだ。名前も何も無いままに、誰にも知られずにカイトの元に行くなら行けばいい。


 それだけの罪があの子にはあるんだ。人の命で生きるなんて、蛮行だよそれは


 ○


 俺は仕方が無かったと思っている。


 当時の俺たちじゃあどうしたって無理だったんだ。

 それはカイトも分かってたんだろう。だからアイツはあの子を助けるって何かを考えたんだ。


 その結果、自分を差し出すって結論を出した。

 馬鹿だと思うよ。本当に、自分を犠牲にするなんて、早まり過ぎだ。


 でも、そんなカイトだから皆アイツの無茶苦茶な考えに賛同したしたし、今の結果も認めている。納得は流石に出来ないけど。

 あの子がカイトとして生きる事はカイトの考えだ。俺はそれを尊重するし、誰かがとやかく言う資格なんて無いって思っている。


 アンナの意見も分かるよ。アイツは何だかんだカイトの事好きだったし、いきなり現れた女に惚れた男を取られたんだ。そりゃ許せないと思うよ。


 けど、アンナのそれが本心じゃないとも思ってる。多分、許せないんじゃ無くて許したく無いんだろうな。

 自分でもどうして良いのか、ちょっと分からなくなってるんだよ。何とも無い風に振る舞ってはいるけど、内心は滅茶苦茶に荒れてる筈だ。


 アイツとカイトは物心ついた時から施設で一緒だったから、アンナは家族と惚れた男を一遍に無くしたのと一緒だ。


 だから、俺の意見としてはあの子をカイトとして受け入れる事には賛成だけど、アンナの意見を無視出来ない。何だかんだ俺たちは昔から連んでたし、新しく来たあの子よりも古い仲間の考えを俺は支持するよ。


 だけど、一番に尊重すべきはやっぱり五十鈴の意見だ。 

 血の繋がった姉妹だし、カイトが死んだ事に一番責任感じてるのも五十鈴だ。


 何で五十鈴があそこから出て来れたのかは誰も知らない。いつ出てきたのか分からないから、五十鈴が覚えているのかも本人しか知らない。  

 けど、そんな話は聞ける筈がない。


 こうやって皆で今まで話した事は何度かあったけど、五十鈴は自分の意見を言わないから、いつも保留で話が終わってた。でもそれは、五十鈴が自分の意見で今後が決定してしまう事を怖がっているからだと俺は思う。


 どっちに転んでも、これは救われる話じゃないから。

 カイトである事を認めると、アンナの意見を無視する形になるし、何よりカイトがカイトで無くなってしまう。


 認めないとあの子は自分で死ぬだろうね。カイトである事が理由で生きているんだから、それが無ければ生きる意味が無い。カイトで無い生き方ってのも存在しない。


 戸籍が無いからまず学校に通えないし就職も出来ない。家も借りれない、免許も取れない、病院にも行けない。

 そんな状態で一生を過ごせる? おまけにあの親だ。


 親があの子の事を認めて協力してくれれば、戸籍は取得できるんだろうけど、そんなもの認める訳ない。何が何でも娘として存在させないだろうね。生んだ理由が美容目的なんだから、端から子供として見てないし。


 五十鈴はあの子を、そんな目に遭わせたく無いんだろうね。本当なら自分がそうなってたのに、自分の身代わりにされた妹をこれ以上酷い目に遭わせたく無いんだよ。


 だから五十鈴は何も言わないんだと思う。

 でも、それも今日までだ。


 いつまでも同じじゃいられない。俺たちもあの子も。

 特に五十鈴はさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

流星の住む町 伊ノ景色 @puccii

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ