第41話 平穏なBBQ大会
平常心を十分に取り戻してから、僕は神社の階段を降り始めた。
別荘へ戻ると、庭には既にBBQ用の機材が用意されていたが、今はそんな気分では無いのが実情だ。
しかし、里見さんは非常に優秀な人なのだな、初江さんにも遅れを取る事の無い人だと思う。
僕が玄関に入ると、そんな里見さんが出迎えてくれた。
「目が腫れてる様ですが、少しは調子も良く成りましたか?」
「ゴミが入っただけで、気持ち良い風に当たったら大分良く成りました」
無関係な人に迷惑は掛けられないと思い、僕は嘘を付いた。
「軽い昼食を用意してるあるので、少しでも召し上がって下さい」
優しい人である。
食事を終えたら少しベッドで横に成る事を決めた。
「ごちそうさまでした」
「全部頂いて下さって安心しました」
「私は部屋で休んでますので、食材を外に運ぶ時は声を掛けて下さい。
お手伝いさせて頂きます」
「ありがとうございます」
里見さんは律儀に頭を下げる。
部屋に戻るとベッドへ横に成り、取り敢えず全ての事を1度忘れる様に努力したのだった。
気持ち良い・・・・
僕は涼しい風に起こされると、外は既に陽が沈み掛けてるでは無いか。
いつの間にか眠ってしまっていた様だ。
3人は既に帰って来ているのだろうか?
起き上がると急いでリビングまで向かう。
「真さん、丁度良い所に来て下さいました」
「はい、お手伝いします」
「そちらの仕込みが終わってる物から運んで下さい」
僕は串に刺された肉や野菜などを、外に置いてあるテーブルとの往復を繰り返したのである。
1台の車が到着すると3人が降りて来た、余程楽しかったのだろう、3人共クルージングの話で盛り上がっている。
水上バイクにも乗らせて貰った事も言っているのが聞こえて来た。
3人は僕に気が付くと、元気そうな姿にホットした様である。
「私達も直ぐに着替えて来ますね」
詩音が言うと香澄と華も手を振って消えて行く、代わりに里見さんが最後の食材を持ってやって来た。
「皆さん戻られましたし、お客様の方々も見える頃だと思いますので、火を起こしてしまいましょう。」
里見さんは手際良く炭に火を付けると網を温め始めた。
完全に陽が暮れると生徒会のメンバーも集まり、簡単な挨拶を交わしBBQ交流が始まった。
僕は少し離れた椅子に腰掛け皆を眺めている。
見た目は楽しそうなんだよな、でも奥にはドロドロとした欲望に塗れた、複雑に絡み合った糸が中心にある様な状態だ。
駆流と詩音の事から始まり、香澄の思いに詩音の傷付いた心、更には生徒会メンバーが絡み、最大の難関である七海の存在と、今では頭が痛く成る程度では済まない状態に成ってるよな。
「真?」
「え、香澄?」
「何回も呼んでるのに、まだ調子悪いの?」
「大丈夫だよ、香澄こそ調子はどう?」
「楽しんでるわよ、真も行こう」
僕は香澄に手を引かれ、皆の側まで連れて行かれた。
結局BBQは平穏に何事も無く終わったのである。
「片付けは、明日皆さんが帰られた後にしますので、そのままで結構ですよ」
「それでは、お風呂で今日の疲れを取りましょうか」
僕は詩音の提案を断って、先に休ませて貰う事としたのだった。
正体の件はもちろんであるが、昼間の事が頭から離れないのであった。
何故、もっと強く拒否出来なかったのか、今までの自分はそんなでは無かったはずなのに、初めての屈辱だ。
許さない、七海は内部進学のはずだから、高等部に上がった時に味わった屈辱は必ず返す。
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