第32話 純粋な一時

僕と香澄は長いエスカレーターを乗り継ぎながら、上へ上へと向かっていた。


「香澄は僕が終業式の日に、生徒会室に呼ばれたの覚えてる?」


「うん、正直言うと私は少し気に成っていたんだ」


「実はね・・・・それで・・・・」


僕は七海から旅行に誘われた事を伝え、4人で旅行するから無理だと断ったと話した。


「生徒会でも無い人間を誘うなんて、可怪しくして怪しい話よね」


「それでね、行き場所と日程を聞かされたのだけど、僕達と全く同じ何だよね」


僕は話を少し変えて、七海の暗黒な部分は伝えないでいる事にした。

香澄まで巻き込んで楽しめ無く成ったら申し訳無いからである。


「無視で良いんじゃない?」


「僕も思ったんだけど、上手く行かなかった事を考えると事前に心構えをして、受け入れた方が良いかなと思うんだ」


香澄はあからさまに不思議そうな表情を見せた。


「七海さんが言うには駆流も来るらしい」


「それは不味いわ、下手にアイツが出てくると詩音のトラウマが蘇ってしまうかもね」


「そうなんだよね」


僕も生徒会室で了解した理由の事の一つで、今の翔琉は有頂天状態かも知れない。

現地で断った時に、良い所を見せようと出て来られても非常に困るのだ。


「はぁぁ」


僕は溜息を付いた。


「今朝の言葉はこれの事だったのね、詩音にはそれとなく私から伝えて上げる」


「え? それは悪いから僕が伝えるよ」


「私に任せなさい、真の敵は全て私が相手に成って上げるわ」


今日の香澄はご機嫌なのである。


「香澄、今は晶だよー」


「ああ、その設定って以外と大事にしてるのね」


一段下にいる香澄は、上目遣いでクスクスと微笑んだのであった。


香澄には申し訳無いが頼らせて貰ってしまおう。



頂上付近まで来た僕達は徒歩で展望台へと向かった。


「いよいよね」


「そうだな」


入口でチケットを購入してエレベーターに乗り込む。

展望階層で扉が開くと最前列までは距離がある物の、十分な景色が目に飛び込んで来た。


「お客様到着でございます」


係員の言葉で僕と香澄は我に帰り1歩づつ踏み出す。


展望階層は360度ガラス貼りで様々な景色が堪能出来る。

旅行で行く事に成っている伊豆半島まで見る事が出来たのには驚いた。


「ちょっとこっちに来て」


速歩きで僕の元まで来た香澄は腕を掴むと、半ば強引に引っ張って行くのである。


「富士山が綺麗に見えてるよ」


「本当だ、凄いね」


頭に被った帽子まではっきりと見えている。

僕もかなりテンションが上って、十分楽しめていると気が付いた。



1時間以上過ごした展望台を後にし、島の麓で名物料理を遅い昼食に選んだ。


「生のしらすって美味しいんだな」


「私も初めてだからびっくりだよ」


時間は14時、店内は空いてるのでゆっくりと味わう事が出来た。



帰りは夕日の中、鎌倉まで高校前の踏切のある坂や稲村ヶ崎などの聖地を見ては感動しながら帰ったのであった。



家の前で僕は香澄に心からのお礼を伝える。


「本当にありがとう、良い気分転換に成ったよ」


「それは良かったね、また今度晶と香澄で出かけようね」


「そうだな、やっぱり幼馴染って良いな」


真が家の中に消えると香澄は呟いた。


「幼馴染か、何時まで待てば良いのだろう」


香澄も扉を開けると家の中へと入って行くのだった。





































































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