第16話 失った飴と許嫁の不安

昼休み、今日も香澄や華と机を並べて弁当を食べた。

香澄は自分の弁当箱をしまうと意味有りげな笑顔で僕を見つめてくる。


「香澄、どうしたの?」


「早く食べましょうよ、真の手作りシュークリーム」


ちがーーう!

これは勉強の合間に華のご機嫌を取る物であって、昼食のデザートじゃ無いんだ。


「華知ってる? 真がね華の為にシュークリームを作って来てくれたんだよ」


「なにそれ、食べたい食べたい、今直ぐ食べたい」


僕は仕方が無く手提げ鞄から冷えた箱を取り出し蓋を開けた。


「あれ? 2つしか無いわよ」


「私は昨日沢山試食したからね」


もちろん嘘である。


2人がシュークリームを手に取り口へ運ぶと、感想を聞かないまでも分かる笑顔で、あっという間に食べ切った。


「真は料理も上手いのね、今度私にも教えてよ」


「もちろん華のためだったら喜んで教えるけど、まずは今日から中間テストに向けて頑張ろうね」


「はーい」


ここまでしたんだ華も真剣に頑張ってくれるだろう。


「真とマンツーマンか楽しみだな」


僕は身の危険を感じてしょうがないよ、苦労して用意した飴も無く成ってしまったし、まだ救いだったのは英語や社会で無かった事だ。

数学なら覚える文法も少なくて済む。



午後の授業前にLINEをチェックすると、詩音からテスト明けの休みに大事な話を聞いて欲しいと届いていた。

駆流との事なんだろう、断る訳にはいかず2日休みの初日に会う約束をするか。

はぁぁぁ、色々あり過ぎて頭がグルグルしてくる。



「駆流は詩音と上手く行ってるの?」


僕は授業中に小声で聞いてみた。


「真がそれを聞くのかよ」


「ごめん、でも詩音は泣かさないでとお願いしたよね」


「距離は取ってるけど泣かす様な事はしてないぜ」


それが泣かす原因だと何故気が付かないのかな。

解消するのはしょうがないけど、もっと上手く立ち回れないのだろうか?

恋愛とは、そんなにも難しい物なのか?


「所で前に聞いたかも知れないけど、お互いの親同士は納得してるの?」


「俺の親父は中途半端な状態で話しても一蹴されるだけだからな、まだまだ知られる訳には行かないんだ」


うんうん、それは分かるよ。

僕だって女子として育てられるのに一切の妥協は無かった、軟禁状態で過酷な試練だったからね。

その部分では後継者として育てられた駆流に同情の余地は有ると思える。



詩音からLINEが届いた。


『何か仲良く話してない?』


『仲良くは無いけど、詩音をどう思ってるか少しでも知っておこうと思って聞いてたんだ』


『そうなんだ、ありがとう』


『中々難しいから時間は掛かると思って、相手は財閥の御曹司だし機嫌を損ねない様に、慎重に話さないと駄目だからね』


『真さんにお任せしますわ』


詩音としては凄く不安だろうな、可哀想に思えて仕方が無い。

でも、僕にも事情と言う物があるのだと、心で言い聞かせたのである。




































































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