第10話 【月王寺アリルのレポート――6/14/21:26】
このだだっ広いホール上階側から潜入したあたしが見た状況は、二式スカラらしき人影が宙高く蹴り上げられるというものだった。
浮き上がった彼の手からこぼれ落ちたもの――あれは〈魔剣〉だろうか。
運悪くタイムリミットだった。
光の粒子へと還って再びスカラの騎士紋に取りこまれていくのと、自由落下の果てに彼自身が床に到達するのとが同時だった。
そのまま床に叩きつけられるかに見えた彼は、すんでのところで受け身をとってダメージを削ごうとする。
けれども受けたダメージがそうさせなかったみたい。
体勢を崩してホール床を転がっていった彼を、突きつけられた無数の銃口がトレースしていく。
「そ……んな、スカラ――――!!」
馬鹿ばか、あたしのが動揺しちゃってどうすんだ。
彼ならきっと大丈夫。
窮地を切り抜ける彼なんていくらでも見てきたんだ、あれくらい絶対に大丈夫。
漏れかけた声を飲みこんで、状況確認する。
ってことは、あの顔なし兵隊どもの中心にいるスーツ男がエッジワースか。
ロボットみたいにぎこちない挙動の兵隊どもにまぎれて、あまりに場違いなスーツ男が人間そのものの挙動不審さで、コントローラーみたいなのを振り回しては爆笑し続けている。
そんなふざけたスーツ男と対峙する、ボサボサの黒髪に生っ白い顔色の男のひと。
苦しげに表情を歪めていても、あたしが見間違えるはずない。
ずっと画面越しに追いかけてきたあたしの推しの騎士――二式スカラそのひとだ。
その二式スカラを蹴っ飛ばしてのけた元凶は、直前まで彼の足もとに転がっていた長い白髪の少女――二式家のメルクリウスだ。
仰向けから奇妙なぎこちなさで揃えた両脚をくの字に曲げると、半身の瞬発力だけで強引に跳ね起きるメルクリウス。
少年みたいにしなやかな体躯の彼女は、息も絶え絶えになった主人を前にしても棒立ちのまま眺めているだけだった。
エッジワースってやつは、ロータスが言うには「自分が神か
うん、言わんとしたいことはわかる。
この屋敷の総合防衛システムどころか、あのメルクリウスの娘までも見事ハックしてみせたのだろう。
あたしにも理屈はわかんないけど、メルクリウスを行動制御するサーバーが体外――それも遠隔地にあるってロータスが言ってた。
そっちに干渉するくらいなら、エッジワースにはお手のものって話。
兵隊たちだってあのメルクリウス同様に、エッジワースの手で完璧にプログラムされている。
〈魔剣〉を恐れる臆病さもない。
彼を円陣で包囲するあいつらは、人間用の医療補助具――いわゆる義手や義足なんかで組み上げた擬人兵だからだ。
そして間髪入れず、次なる作戦行動が擬人兵たちによって実行される。
発砲――アサルトライフル型暴動鎮圧銃による一斉掃射。
銃口から射出されたのは、ロータスの説明どおりなら非致死性の強化ポリカーボネート弾に
これらはすべてエッジワースが考案した対騎士戦用兵器だった。
「……――
落下ダメージがまだ回復していないスカラが、立て膝体勢のまま新しい〈魔剣〉を騎士紋からブートさせた。
あれがどのIDナンバーなのかはあたしに目視判断できない。
ただ彼は即座に摂理侵犯を発動せずに、自身に降りかかる弾丸を驚くべき正確さで弾き返していく――銃口に瞬くマズルフラッシュとコンマ秒で反応する火花、残光めいてほとばしる電光。
なるほど、あれはID12か。
短刀型の刃渡りからしてそれっぽいし、あれなら防御特化型だ。
やがて擬人兵たちが弾丸を撃ち尽くした。
きっかり十五秒間をしのぐだろう装填数までエッジワースの
もっとも、あたしも見こんだ英雄候補者たる彼――二式スカラの勝利はまだ遠い。
「…………そん……な………………どうしてな…………の、エンデ……バー……?」
絶望に打ちのめされたみたいな顔を浮かべる彼。
その首根を片手で掴み上げたのは、彼が銃弾の雨から庇ってみせたはずのメルクリウスだった。
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