〜Ⅲ-Ⅲ〜烏丸
『道』を駆け抜ける。
ライナー側の兵士達に愁円達は認識出来ていない。
風のように敵兵士の隊列を追い越し、愁円達は『洋の魔界』へと足を踏み入れた。
「止まれ!怪しい奴…さては『和の魔界』とやらの刺客か?!」
「!」
上空から声がする。
見上げれば、背中に鷲の翼を生やした弓兵らしき男が飛びながら愁円達を見下ろしていた。
その男を視認した烏丸が、愁円とナハト達にジェスチャーで合図を送る。
『任せろ。先に行け』
「…烏丸、生きて帰って来いよ」
それだけ告げると愁円はナハトと焔丸を連れて先に向かって走り去る。
横目でそれを確認して、烏丸は背負っていた弓を手に持ち、それから何故か懐から黒い布を取り出し目隠しをした。
「…貴様、私を舐めているのか?同じ弓兵だからとここに残ったのだろうが、余りに愚策だ「黙れ。『見え過ぎる』のが俺には逆に戦い難いだけだ」
弓兵の言葉を遮り、烏丸は思い返していた。
ガランノによる『地獄の鍛錬』を―――…
―――――
『今の見えたか?』
『全く見えません』
そのやり取りを幾ら繰り返しただろうか?
『目を閉じたら一発殴るからの』
『それ死ぬやつ、ワンパンで死ぬやつ』
『大丈夫じゃぁ、愁円魔王が面白い薬を貰って来たから、死にはせんよ』
瞬きせずにガランノの放つ矢を見切れ、という最初の課題に、思わず瞬きしてしまい殴られる事を繰り返し。
身体は愁円並みに頑丈になった。
『ほれ、もっぺん放つから見てみ』
『……っ、?』
何百回、下手したら何千回と繰り返したその光景に少しばかり違いが表れ始める。
ガランノの放つ矢を視認した。
そこから先、パリン…と何かの壁を壊した気がした。
視界がクリアになり、遠くまでハッキリ見通せる。
様々な生き物の動きまでハッキリわかる。
『…見えた』
『なら次の課題じゃの』
今度は逆にひたすら速く矢を射る。
的の真ん中に正確に。
それが出来れば、的を増やす。
それが出来れば、一撃の威力の底上げ。
また何千回と繰り返し、遂に烏丸は―――…
岩に矢を射って、岩に風穴を開ける事に成功していた。
『免許皆伝、じゃな』
―――――
――戦い難いだけだ――
そう言い切らない内に、上空に居た弓兵は地に落ちていた。
理解が追い付かない。
翼を動かそうとするが、感覚すらわからない。
ふと、目の前に視点を移した。
見慣れた、鷲の翼。
まるで根元から破壊されたように、二対の翼が地に落ちている。
それから、自分の胸元に違和感を覚える。
胸元を風が通り抜け、痛い。
痛い、どころではない。
涙で滲む視界をまた目の前に戻す。
そこには―――…
無惨に射抜かれた、己の命の源の塊。
それだけ認識して、弓兵の意識は暗転する。
「やっと見終わったか、『走馬灯』」
倒れ伏す弓兵をちらりと見遣り、烏丸は愁円達を追って再び走り出した。
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