〜Ⅱ-終〜ガランノの師事の終わり

「そろそろ攻撃力の鍛錬に移るかのぅ」



そうガランノが言ったのは、何度ガランノに殴られた後か…『ものの序でに鍛えてやっとる』と言われたナハト達にも何かしらの変化があった様子で愁円は少しガランノに対しての意識を変えるべきか、と思った。

ユエから貰った蜜は、瓶の半分程に減っている。

殆どが、ガランノがナハト達に指示した分の代償なのだが、今は割愛するとしようか…。


「攻撃力、とは主に何をすれば…?」

「ナハト君がナイフ、焔丸君が槍、烏丸君が弓矢をそれぞれ得意な武器としとるのはわかるな?」

「…ああ」


『駄目じゃ下手くそ、的にちゃんと当てるんじゃ』『構え方からなっとらん』『飛距離と与えるダメージがなっとらんのぅ』…等など、そう聞こえたガランノの指摘はこの際聞かなかった事にするべきか少々悩んだが、今は時間が惜しいので愁円は深く考えるのを辞めた。


「筋肉を鍛えれば、自ずと防御力も攻撃力も鍛えていけるもんじゃ。鋼の筋肉の持ち主なら、鋼を越える威力の攻撃以外では微塵もダメージが入らん」

「……攻撃力に繋がる意味は?」


いまいちガランノの話がわからず尋ねる愁円に、ガランノは少し肩を竦めてから口を開いた。


「ワシがお主の仲間に課した修行と、先程のワシの話が繋がらんと言えるかのぅ?」

「…筋力の増強…」

「わかってるではないか」


愁円の呟きに、ガランノは小さくカラカラと笑う。

正直、笑うような場面と気分ではないのだが、愁円はぐっと堪えて更にガランノに尋ねる。


「俺が武器を使用した修行をしていないのは何故?」

「お主は自分の身体を武器にして戦うのが一番効率がいいからじゃ」

「??」

「…お主に武器を持たせたとしても壊滅的に修行の段取りが悪くなるんじゃ」

「………マジか…」

「マジじゃな」


ハッキリ頷くガランノに少々心にダメージが入る愁円だが、メンタルダメージを受けてる場合ではないと軽く頭を振ってから再びガランノに問う。


「なら俺の戦い方とは?」

「ワシゃ言ったが?『もげる位にはなるかものぅ』とな」


何を今更、というようなガランノの言葉に愁円はガランノの話を思い返す。

…確かに言われた気はする。


「…『もげる』とは何を?」

「………そこまで詳しく説明せにゃいかんか?相手の身体の一部じゃ。手足なり、または極めれば首をもげるかもしれんの」


説明が面倒臭い、と態度に表しながらもガランノは愁円に話す。


「もげる段階まで筋力を鍛えれば、拳で貫く事も可能じゃろうて?お主の武器はお主自身の肉体よ。免許皆伝、位には鍛えておいたつもりじゃが…後はお主の仲間の技量次第になるかのぉ…」

「…今のところ鍛えてくれた事に感謝はする」


精魂疲れ果てた、という様子でぐったり死んだように寝ているナハトと焔丸と烏丸の姿を目にして愁円はこれ以上は彼等には酷にしか違いない、と判断してガランノに向かい頭を下げて礼を言った。


「何じゃ、ワシは恩返ししただけじゃ。後はお主等で乗り越える事じゃ」

「わかった、ありがとうガランノ……?ガランノ?」


愁円がガランノに礼を言い一つ瞬きした瞬間には、その場に既にガランノの姿は無かった。


「…よし」


パシン!と自分の頬を叩いて気合いを入れた愁円は、兎に角ナハト達が回復するまでの間にひたすらガランノに教わった事を繰り返し続けるのだった。

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