〜Ⅱ-Ⅱ〜蜜

次に愁円が目を開けた時、身体は包帯でぐるぐる巻きにされていた。

それでも何とか身体を動かす事は出来た。


「愁円魔王さん、まだ無茶に動いちゃいけませんよ」


様子を見に来た医者の優眠(ゆうみん)が注意する。

しかし、愁円はどうしても確認しに行きたい事があった。

優眠の静止も聞かずに、愁円はユエと会った森に向かって行く。

何倍も時間がかかったが、開けた場所に辿り着く。

そこに居た人物に、愁円は目を見開くと思わず叫んだ。


「ユエっ、大丈夫だったのか!?」

『っ!愁円…さん?どうしたんですかその怪我!?』


そこにはユエが居た。

花は手折られ茎しか無いのに。

愁円はユエを目にして力が抜けたようにへたり込む。


『愁円さん!』

「…ユエ、大丈夫…大丈夫だ。ちょっと修行?しててな、しくじっただけだから」


駆け寄るユエに自分は大丈夫だから、と宥める愁円に、ユエはそっと瓶に入った透明な液体を差し出す。


「?これは?」

『私の花の蜜を溜めたものです…一滴舐めてみてください』


ユエにそう言われ、愁円は瓶の蓋を開けて一滴蜜を舐めてみた。


「!?」


舐めた蜜を飲み込んだ瞬間、瞬く間に愁円の負った怪我が完治した。

驚きに呆ける愁円を見て、ユエが言う。


『良かった、治って…もう、無茶をしないでください…』


そんなユエの頭をそっと撫でて愁円は告げる。


「ユエの為なら、無茶だってする」

『…え?』


ユエの瞳が困惑に揺れる。

その瞳を覗き込むと愁円は言う。


「ユエの意思も聞かずにユエを手折って攫って行ったライナーだけは許さない。ユエ、必ず助ける」

『………愁円さん…』

「それより、花から離れて大丈夫なのか…?」

『一応、精霊ですから…花が枯れない限りは』


そう言うユエだが、身体が薄れて見える。

それが心配で、愁円は決意を固めた。


「修行、頑張って必ず助ける。約束する、ユエ」

『………』


ユエは何も喋らなかったが、愁円にはユエが小さく頷いたように見えた。


『…今日はここまでが限界ですから…また…』

「……わかった、またな、ユエ…」


姿を消したユエの後を暫く眺めてから、愁円はまた地獄のガランノ流修行に挑みに向かうのだった。

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