〜Ⅰ-終〜手折られた花
それからまた数日が経ち、愁円はまたユエに会いに行きたくなった。
戦の様子を見て、大丈夫そうだと判断した愁円は森の開けた場所に向かって行く。
そこには、何時ものように一輪の白い花が咲いている。
ただ一つ違うのは、そこにライナーが居てユエに何かを話している事だった。
愁円は思わず二人の前に飛び出した。
「ライナー!…ユエとどういう関係だ?何を話していた!?」
「…貴殿もか、ユエと会っていたのは…だがユエは俺のものだ、貴殿には渡さん」
「何を言うんだ!ユエは物じゃない!」
「…ふん、精々吠えているがいい。貴殿の国も何れは俺の国に合併するからな」
怒る愁円を鼻で笑うと、ライナーは白い花に手を伸ばし手折ってしまった。
「なっ……!!」
「ユエは貰っていく…貴殿には勿体無い」
花を持ったライナーは身を翻すと居なくなった。
愁円の伸ばした手は空を掴み、ユエが攫われたと理解すると同時に愁円の心に激しい怒りや虚無感が渦巻く。
(ユエ…ユエっ…)
ライナーへの怒りとユエを失った虚無感に襲われていた愁円が次に認識したのは、心配そうに自分を見るナハトと焔丸と烏丸だった。
「愁円魔王、どうしたんだ、何があった?」
「何時もの愁円魔王じゃないなぁ」
「何でも話せ。力になる」
「お前達……」
少し冷静になった愁円はユエとの出会いと先程の出来事をナハト達に話した。
「そりゃねぇわ…ユエさんの意思すら無視かよ」
「愁円魔王はユエさんを助けたいんだなぁ?」
焔丸の言葉に愁円は深く頷く。
「しかし愁円魔王は戦えないのでは?」
「それな」
「っう…鍛える…!」
烏丸とナハトの言葉に若干傷付きながら愁円は拳を握り締める。
「鍛えるったって…今から鍛えても…」
「困ってるようだのぉ、愁円魔王」
「!?」
不意に聞こえた間の抜けた声に焔丸と烏丸が愁円を護るように振り向くと、そこには一人の男が座り込んで居た。
「…ガランノさん?」
「?愁円魔王の知り合いか…?」
「ワシの命の恩人なんじゃ。何かしら礼をすると言ったから、愁円魔王を鍛えてやろう」
「ガランノさんが鍛えてくれる…?」
正直、ガランノが強そうには見えず愁円は訝しげにガランノを見る。
「取り敢えず、敵さんを何人か捕まえたんじゃ。それをワシが先ず倒すでな」
ガランノは付いて来い、というように歩き出し、愁円達もまだ訝しげにしながら付いて行った。
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