〜Ⅰ-Ⅴ〜人助け

愁円がユエと出会いまた数日のライナー部隊との膠着状態が止まった時。

心の癒しが欲しくなった愁円は、もう一度ユエに会ってみたいと思うようになっていた。

気付けば彼女の事を考え、あの澄み渡る瞳を思い返す自分が居た。


(…ユエは、何が好きだろう?料理は食べるんだろうか)


ふと思い立ち、調理場に向かって何を作るか考える。


(無難に、握り飯か?…いや、あの綺麗なユエに握り飯は似合わないな。…ちらし寿司にしよう)


テキパキとちらし寿司を作り上げる。

料理は愁円の趣味の一つであり、作るのは得意だ。

出来上がったちらし寿司を重箱に詰めて風呂敷で包むと、愁円はユエの居る森に向かって行った。


―――――


森の開けた場所に、一輪の白い花はまだ美しく咲いていた。

花の側に風呂敷包みを置き、愁円はそっと花弁に指を触れてみた。


『愁円さん?』

「…ユエ?」


背後から聞こえた声に愁円が振り向くと、あの日と変わらないユエが立って居る。

相変わらず美しい瞳に、疲れ切った心が癒やされていくのを感じながら愁円は風呂敷包みを示してから聞いてみた。


「ユエが何が好きかわからないから…取り敢えずちらし寿司を作って来たんだ」


それを聞いたユエは少し目を見開くと、困ったように言った。


『…私は人の食べ物は食べる事が出来ません、ごめんなさい』

「っ!済まないユエ、謝る必要ない!」


ユエを困らせたかった訳では無い、と必死に弁解する愁円を見てユエが小さく微笑む。

その顔に、またトクン、と鼓動が鳴った気がした。

それから、ユエと他愛無い話を沢山した。

気付けば、日が暮れかけていた。


「そろそろ帰らないとな…また来ていいか?」

『はい、待ってます』


ユエに見送られ、愁円が森を抜けようとした先に、一人の男が倒れて居た。

取り敢えず無視するのはいかんとその男に近寄り安否を確かめる。


「あの…大丈夫か?戦に巻き添えにでもなったのか?」

「………った…」

「?」


ボソボソと小さく呟く声を聞き取ろうと愁円は更に男に近寄る。


「腹…減ったんじゃ……死にそう…じゃ…」

「俺のちらし寿司でいいなら食うか?」

「…!いい…のか…?」

「ああ」


空腹で死にそうだというその男に風呂敷包みからちらし寿司の入った重箱を出して渡すと、物凄い勢いで食べ出す。

あっという間に空っぽになった重箱をきちんと愁円に返して、男は頭を下げて礼を言った。


「済まんかった、ワシはガランノ…此度の礼は必ずする故」

「礼なんていいさ別に。じゃ、俺は帰らないといけないから、ガランノさんも気を付けてな」


ガランノに向かって手を振ると、愁円は帰路につく。

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