〜Ⅰ-Ⅳ~一輪の花

刻々と日が経ち、一週間後。

魔王ライナーが、ディアスを従え愁円の城の王の間に再び訪れた。


「答えは出たかな?愁円殿」


ライナーの問いかけに、愁円は少しばかり目を閉じ考える素振りを見せてから答える。


「軍門に降る、というのは待遇がいいとは思えない。よって断らせていただく」


愁円の答えに、ライナーが薄く笑ったように見えた。


「なら、武力行使となるな。貴殿の答えなのだから、精々足掻いて見せてくれ」


そう言った後、ライナーはディアスと共に帰って行った。


「…今の内に捕らえなくて良かったのか?」


ナハトが訝しげに愁円に問う。

愁円はナハトを見て答える。


「捕らえたとして、洋の魔界の者がライナーを取り返しに来ない保証は無い。我が和の魔界は戦える者が少ない…ライナーを捕らえるのは愚策だ」

「確かになぁ」


愁円の答えに焔丸が賛同する。


「トキ達の部隊に『道』からの侵略行為を何としても止めるように伝えて欲しい。なるべく犠牲が出ないように…無茶を言ってるのは理解している」

「自国の危機なんだから無茶を言っても構わないと思うよ?」


ナハトが愁円を励ますように言う。


「…国を護らないと…」


玉座から立ち上がった愁円は、可能な限り戦力を集める為に奔走した。


―――――


それから何日が過ぎただろうか…。

『道』を突破しようとライナーの国の部隊が絶えず襲い来るのを防衛するトキ達の部隊や他の援軍達。

皆が神経をすり減らす中、指揮をする愁円は人一倍疲れ切っていた。


その日、珍しくライナーの部隊の動きが無く、愁円は息抜きでもしようと『道』の近くにある森に散策に出かける。

どんどん森の奧に進んで行くと、開けた場所に出た。

その開けた場所の真ん中に、一輪の白い花が咲いている。


(花……綺麗だなあ……)


愁円は花に吸い寄せられるように近寄り、そっと花に手を伸ばした。


『ごめんなさい、どうかこの花は手折らないで…』

「!?」


いきなり背後から聞こえた声に、愁円はびっくりして振り向く。

そこに居たのは、長い銀髪にグレーの瞳で、白い綺麗な服を着た女だった。

女は愁円を見つめるとまた言った。


『私の名前はユエ…この花の精霊です。ですから、この花は手折らないで…』

「…ユエ…というのか。済まない、あんまり綺麗な花だから…俺は愁円、『和の魔界』の魔王だ」

『『和の魔界』…平和を重んじる国だと聞いた事はあります…そうですか、貴方が『和の魔界』の魔王さん…』


ユエは少し愁円に興味を示し、愁円に座るように促した。

愁円が座ると、ユエが隣に座る。


『…お疲れのようですが、どうかされたのですか?』


ユエが心配そうに愁円を見つめる。


「……『洋の魔界』の魔王ライナーに、軍門に降るように言われたのを断り、武力行使に移されてしまったんだ。もう何日経ったかわからない…ずっと膠着状態が続いている」

『…そう、だったんですね…。辛いでしょう…私には何でも吐き出してください』


そう言ったユエの瞳を愁円は見つめる。

何処までも澄み渡るように美しい瞳だった。

トクン、と小さな鼓動が鳴った気がした。

そんな時に、空に開戦の狼煙が上がったのが視認出来た。


「済まないユエ、また開戦のようだから国を護らないと」

『…はい…どうか気を付けてくださいね』


走り去る愁円の背中を見つめる、儚く悲しげな瞳があった。

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