第24話

 立体映像が切り替わる。


 それはヘビのかたちをした仮面だった。


「ヴァルシアンの蛇形記章ウラエウスといっての。そいつは、わらわたちの象徴なのじゃ」


 ウラエウスは、ちょうどコブラの顔のような形をしていた。金色に光っており、赤や青で塗装とそうがなされている。


「ツタンカーメンのマスクに似てる……」


「古代のエジプトでは、コブラのすがたをした女神さまが信仰されていましたからね」


「エジプトか。ご先祖様が向かった地がそのような名前だったような気がするが……はて、どうだったじゃか」


 ヘビ人間ってもしかして、昔の人類に影響を与えているんだろうか。もしかしたら、エジプトのファラオたちは、ちりぢりになったヘビ人間を見て、それを神様だとなんだと崇めるようになったとか。


 まあ、おじいちゃんの小説じゃあるまいし、そんなことあるわけないよね……。


「とにかく、ウラエウスを見つけてきてほしいのじゃ」


「どうして? ただの仮面のように見えるけど」


 わたしが聞けば、ヘビの眼光が飛んでくる。


 弾丸のような視線に、わたしのからだはヘビににらまれたカエルみたいに硬直こうちょくした。


 威圧感いあつかんは、瞬時に消えて、リンカロスの笑みがわたしに降りそそいできた。


「ただの仮面かと思われるかもしれないのじゃが、そうではない。王のみが代々つけることを許されるこの仮面は、同胞どうほうへの絶大な影響力を誇る」


「つまり、その仮面があれば、ヘビ人間たちは従う……といいたいのですか」


 プリンちゃんの言葉にリンカロスが頷く。


「だからこそ、わらわたちはウラエウスを欲する。それがあれば、邪神崇拝者どもの支配から逃れ、わらわたちの仲間になってもらうものと」


 そう力強く言い、リンカロスのこぶしが、天井へと突きあがる。周囲のヘビ人間たちは同調するように、足踏みをし始めた。


 熱狂に包まれた部屋の中で、わたしたちは困惑することしかできなかった。






 ひとしきり熱狂が続いたところで、リンカロスの口が動いた。


「――して、どうかの」


「どうって、ワタシたちに拒否権があるようには思えないのですが」


 まわりのヘビ人間たちの目は爛々らんらんと輝いている。そのウラエウスとかいう仮面を熱望して、浮かれているというふうに。わたしたちが断りでもすれば、ただちにその手に握られた矛先が、わたしたちへ向けられるんだって、わたしにもわかる。


「たくさんのヘビ人間たちと戦えっていうの?」


「いやそこまでは求めんよ。ほとんど無辜むこの民だしの」


 ため息交じりに、リンカロスが言い、なおも言葉を続ける。


「さっき言った仮面を探しだして、ここまで持ってきてほしい。こっそりと、やつらに気取けどられぬように」


「邪神がいるかもしれない場所に、ワタシたちだけで?」


「いや、かの神はいないであろう。いるとしたら、落とし子くらいのものじゃろうて。最悪、息子くらいはいるかもしれぬが」


「……落とし子とヘビ人間だけでも手に余るのに」


「わたし、その王国のこと知らないよ」


 街を立体映像で再現できるほどの技術を持った、生命体が住む街……。めちゃくちゃ大きくて複雑に違いない。なにも知らないわたしたちが向かえば、よぼよぼのおばあちゃんになっても、その仮面とやらを見つけられないかも。


「大丈夫じゃ。そこは、わらわたちから精鋭せいえい中の精鋭をつけよう」


「監視役ですか」


「そうともいうかもしれないの」


 プリンちゃんとリンカロスの視線がぶつかりあって、火花を散らす。ふたりとも笑っているのが、めっちゃ怖い。


 わたしたちの前に、一人のヘビ人間がやってくる。槍についたリボンが特徴的なヘビ人間だ。誰もかれも、ヘビ人間はそっくりだから目立つ目立つ。


「彼はパフワダー。戦闘部隊では、潜入任務を担当している」


 リンカロスの紹介に、パフワダーが黙って頷く。背筋はピーンと伸びていて、口は一本の棒のように結ばれている。細長い瞳孔どうこうは一ミリも動いてないんじゃないだろうか。


「このパフワダーがおぬしたちを、仮面の下まで案内する」


「えーと、ようするに、こっそり仮面を盗んで来いってこと?」


「そういうことじゃ」


「えー、盗みなんてイヤなんだけどなあ」


「……断ったら?」


「ここにずっといてもらう……というのでもよいが、本当によいのか」


「なにがです」


「おぬしがさっき言っておったろう。ヘビ人間は覚醒の世界を危機にさらしている、と。――仮面を奪わなかったらどうなると思う?」


 リンカロスの目が、わたしとプリンちゃんを見た。


「あやつらは、かの邪神の力を借りて、覚醒の世界に進攻するつもりじゃ」

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