第23話

 リンカロスが指を鳴らせば、ヘビ人間たちがサッと現れてきて、なにか機械のようなものを押してやってくる。


 部屋の明かりが消されたかと思えば、その機械もどきが光を発する。


 それは、プロジェクターのようなものらしい。だけど、わたしが知っているプロジェクターとちがって、映像が空中に浮かびあがっている。アニメとかSF映画に出てくる、立体の映像って感じだ。


 立体的に映しだされているのは、家であり、道であり、複雑な建物である。ようするに、何分の一スケールかはわからないけれど、一つの街が丸ごと、そこに投影されていた。


「ご先祖様が住んでいた王国じゃ」


 円形の街は、縮小されてはいるけれども、かなり大きい。東京か、それ以上はあるんじゃないかってくらいには大きかった。


 高い壁があって、まるでコロッセオかなにかみたいな街は、たぶん石かコンクリートでできていて、ホログラムでも頑丈そうなのがわかる。


「すっごい立派な街……」


「ま、おぬしらが恐竜と呼ぶトカゲモドキにぶっ壊されたがの」


「ちょっと待って、恐竜に壊されたっていいました?」


「ああそうだ」


「でも、恐竜って人類が生まれる以前のことじゃ」


「わらわたちはその前から、地球にいたのじゃ」


 と、自信満々にリンカロスが言う。


 なんだか、SFアニメみたいになってきたぞ。そのうち、爬虫類はちゅうるい帝国が出てきそうな勢いだ。


 次に現れたのは、なんだか木の根っこみたいな立体映像だ。ぐねぐねと曲がりくねった一本の縦棒から、複数本の横棒が伸びている感じ。


「これが、第二の都市。北米と呼ばれている大陸につくった地下帝国じゃ」


「ということは、エイボンの書の記述どおり……」


「ああ、その本のことなら、部下に聞いたよ。なんでも、わらわたちの歴史が事細かに書かれているそうじゃな。エイボン、そうかハイパーボリアの」


 エイボンの書! 


 そんな名前の本を、おじいちゃんの蔵の中で見たような気がする。あれ、読んでみたことあるけれど、そんな話あったっけ? 


「ありましたよ」


「そっか、けっこう前に読んだからなあ、ぜんぜん覚えてないや」


「とにかく、この都市――ヨスというのじゃが――の時代に、我が父とは違う、いうなれば『邪神』信仰が行われたというわけじゃな」


「――それでどうなったの?」


「どうなったもこうなったもない。同士討ち、骨肉の戦いが起り、最後には我らが父が激怒なさって、終わりじゃ」


 終わり、という部分を、諦めまじりにリンカロスは言った。


「とある考古学者がスペイン人の手記をもとに、地下帝国の存在をほのめかしていましたが、もしや赤く輝く廃墟はいきょというのが……?」


 プリンちゃんの問いかけに、うなづいた。


 地下帝国はヘビの神様の怒りを被って、崩壊した。それが、ヨス。


 そしてまた、都市が現れる。


「これが三つ目の都市であり、おぬしらに行ってもらいたい場所なのじゃ」


 その都市は、最初のものとそれほど変わらない。石造りで、円形。ただ、違うのは、奇妙な像がそこここにあるってこと。ガーゴイルのように屋根に置かれたその像はさいしょ、黒い煮卵にしか見えなかった。


 だが、違う。ツンと伸びた耳に、ヒキガエルのような顔、毛皮に覆われた巨体を縮めたその姿は、倦怠感けんたいかんに満ちている。その黒の中で、引き延ばされた口と、怠惰たいだな瞳が輝いている――そんな像が、街のいたるところに存在している。


 これが、ツァトゥグァだ。そうに違いない。


「ここには、わらわたちの同胞が住んでいる。もとはわらわたちも住んでおったのじゃが、追い出されての」


「宗教上の違いで」


「そういうことじゃ。わらわたちも戦ったのじゃが、負けてしもうた。それで、こんな場所に押し込められておるというわけじゃ」


「ワタシたちに敵討ちをしろっていうんですか」


「いやいや、そんな無謀むぼうなことは言わない。ただ、その街にあるものをとってきてほしい……それだけじゃ」

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