第22話
案内されたのは、一つの部屋だった。そのとびらは、板チョコみたいな模様があり、ちょっと豪華そう。
そのまわりには、槍を手にしたヘビ人間が直立不動で立っている。まるで、警察署の前に立っている警察官のよう。
中に入れば、
奥には、椅子がある。
そこに座っているのは、やはりヘビ人間だ。
そのヘビ人間には、他の個体とくらべて、オーラがあった。ただならない雰囲気に思わず息がもれた。
それは、わたしたちを
ただ、胸に
「よく来た」
女王様と呼ばれていたヘビ人間が口を開いた。
「わらわは、リンカロスという」
「……ヘビ人間が何の用ですか」
そう言ったプリンちゃんは、椅子にゆったりと腰かけるリンカロスを睨んでいた。ヘビ人間に思うところでもあるんだろうか。
リンカロスは
「海岸に倒れていたところを助けたのは、わらわの部下じゃぞ。そのような言い方をするのはいかがなものかな」
「……
「あ、ありがとうございます?」
「不愛想じゃのう。たいして、そこの人間は愛想がいいようじゃ。そちの名は?」
「現川みのりっていいます」
「みのりか……
夢の名? はじめて聞く単語に、困惑する。わたしは現川みのりという名前しかない。あとは友達が名づけてくれた「みーちゃん」ってあだなくらい。
「わたしが『プリンセス』って呼ばれているような感じで、夢見人にはこの世界の名前が与えられるのです」
「あるいは<ドリーム・オブ・ヒーロー>のように」
誰か知らない名前だけれど「ヒーロー」なんてついている人が、ただものであるわけがない。
ふむ、とリンカロスはちろりと唇をなめて、わたしのことを見てきた。
「おぬしはかの有名な夢見人とも違うようじゃ。どちらかといえば、カーターに似ておる」
「なるほど」
そう言ったのはプリンちゃんだった。
「あの偉大な夢見人と同じように、みのりもまた生身でやってきていますからね」
「ふむ、なんという幸運。そのような存在と巡り合うとは」
うんうんとリンカロスが頷いている。なにが幸運なのかよくわからなかった。
プリンちゃんが、盛大にため息をついた。
「なぜ、ワタシたちをこんなところに?」
「それはだな、おぬしらが浜辺に打ちあがっていたゆえ、助けてやろうと思ってな」
「武器を没収しておいて?」
意味ありげにリンカロスが笑えば、プリンちゃんのかわいらしい眉間にしわがよった。
「おぬしらが危険な人間かもしれぬからの」
「しらじらしいことを言わないでください。どうせ、はなからワタシたちを捕まえるつもりだったのでしょう?」
「ねえねえ。なんでそんなにツンケンしてるの……」
「ツンケンなどしていませんが、このヘビ人間という種族は、邪神を
「邪神というのは心外じゃな。おぬしらの信じる神とは違うというだけではないか」
リンカロスの、ヘビのような細い
「その神様って……?」
「ああ、おぬしはドリームランドに来たのがはじめてなのか。わらわたちはイグという神を信仰しておる」
「ツァトゥグァじゃないの」
その舌を噛み切ってしまいそうな名を、プリンちゃんが発した途端、ヘビ人間たちが
まるで、その名前に力があって、それを嫌悪し、
ざわざわとした空気を沈めたのは、リンカロスの一言であった。
「
そのハスキーな一声が、浮ついたヘビ人間たちに、冷水を浴びせかけ、その瞳に浮かんでいた恐怖を覚ましていった。
それから、リンカロスの目は、プリンちゃんを向いた。
「その神の名を
「……すみませんでした」
「いや、わかってもらえればいいのじゃ」
と、リンカロスの刃のような空気が
「あなたたちは、かの神を信仰していないのですか」
「もちろんじゃ。わらわたちはヘビから生まれた身、どうして大いなる父を信仰せずにいられるだろうか」
大いなる父というのが、さっき言っていてイグって神様のことだ。
じゃあ、さっきプリンちゃんが言っていた神様ってなんなんだろう。
というか、この夢の世界とやらには、神様がいすぎてなにがなんだかわからなくなってきた。
「魔法使いよ、おぬしは邪教に身をやつした者たちのことを知っておるのか」
「まあ……ちょっとは」
「では話が早い。おぬしたちを運んできた甲斐があったというものじゃ」
「どういうこと?」
夢の世界初体験のわたしは、二人の会話にすっかり置いてきぼりになっていた。ちょっと仲間外れになっている感じがして、そうたずねてみる。
「それを今から説明しよう。じゃが、やってもらいたいことがある、とだけは言っておこうかの」
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