第21話

「ところで」


「うん」


「ここはどこなのでしょうか」


「わたしが聞きたいね。洞窟の中みたいだけど……」


「ワタシたちは、樽に乗っていましたよね?」


 わたしはうなづく。それがどうして洞窟も、こんな狭くるしい監獄かんごくみたいな部屋に押し込められているのか、皆目かいもく見当がつかない。


「浜辺にでも打ちあがったとか?」


「それはいいとしても、だれがここまで」


 プリンちゃんが、疑問を口にしたところで、足音が扉の向こうから聞こえてくる。それは、だんだんとこちらへと近づいてくるようであった。


「噂をすればってやつだね」


「なにか、武器があれば……」


 わたしたちが身に着けていたはずの武器は、すっかりなくなっていた。こんな部屋に入れられたということを考えるに、奪われてしまったんだろうか。


 かちゃりとカギが下ろされ、扉がぎいっと開いていく。


 そこに立っていたのは、ヘビのような顔をした、二足歩行の生物であった。




 その奇妙な生命体は、わたしたちホモサピエンスによく似ていた。手と足があって、二本の足で立って歩くところなんかそっくり。


 でも逆に言えば、それ以外に似ているところはない。


 肌はつややかなうろこに覆われており、手にはトカゲのようにカギ爪があって、松明をしっかり握りしめている。大地を踏みしめている足は、ヒトよりも長くて細長い。


 髪はなく、それどころか体毛さえない。つるつるの顔には、離れた目が二つ。その目は、ヘビのように縦に細長い瞳孔をしている。ツンととがった口からは、チロチロ長い舌が出たり入ったり。


「ヘビ人間……」


 プリンちゃんが呟いたが、やってきたのはまさしくヘビのような人間だった。


 そのヘビ人間は、口を開く。


 どんな言葉を発するんだろうと思っていたら。


「やっと目がめたか」


「え、日本語喋ってる……」


「夢の世界ですので」


「ああ、なるほど」


「なにを言っているのかわからないが、さっさと来てもらおう。女王様がお前たちに会いたいそうだ」


 わたしはプリンちゃんを見る。プリンちゃんは肩をすくめていた。






 ヘビ人間のあとにわたしたちは続く。


 ひんやりとした鍾乳洞しょうにゅうどうみたいな細い通路が迷路のように伸びている。


 壁には、ランタンがくぎで打ちつけられており、わたしたちが横を通るたびに、青白い炎がチラチラ揺れた。


 さっきまでいた部屋からわかっていたことだけど、ここはやっぱり洞窟どうくつらしい。


 ヘビ人間はこっちを振り向くことなく歩いている。人間かどうかはわからないけれど、二人でなら――。 


 その長い首に両手を伸ばそうとしたところで、プリンちゃんの手に止められた。彼女の手はあたりへと向いている。


 手が指す方を見れば、あたりは多少広くなっていた。地下鉄の券売機前って感じで、多くの細い道が合流する地点のよう。


 あちこちには、人影ならぬヘビ影があり、わたしたちのことを物珍しそうに観察しているようであった。その数、数十人はいる。


 わたしは伸ばしていた手を、上にあげる。降参だ。こんな数の相手なんてできるわけがないじゃん。

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