第16話
さて。
プリンちゃんが考えている間、わたしは、プリンちゃんを守ることにした。防御魔術だか何だか知らないけれど、女の子が、むさくるしい男か、魔女みたいな女に襲われているのを見ているふりなんかできなかった。
それでも、ウツロブネの船員たちが戦っている数からしたら、わたしの戦いなんてたいしたものじゃない。
甲板中央では、剣と剣とがしきりにぶつかりあい、火花が散っていた。
ドーンと音がするたび、火柱が上がり、船が揺れる。
香ばしい肉の焼ける臭いが漂ってくる……。
角の生えた魔女が杖をふるえば、意志を持った火の玉が浮かびあがり、船員たちを焦がしていく。
悲鳴を上げる船員が半狂乱で手すりを乗り越えていって、下の方でじゅっと音が鳴った。
地獄絵図とはこのことかもしれない。
見上げた空には、暗雲が立ち込めようとしていた。
「そうだ!」
とプリンちゃんがいきなり叫んだものだから、わたしはびっくりして飛びあがってしまった。
「お、大声出さないでよっ」
「あ……ごめんなさい。みのりが近くにいることを忘れていました」
「…………」
「
「なにそれ」
「かのムナールという地で見つかるという、
プリンちゃんの手のひらに、星形に炎のような目が描かれた奇妙な石が現れた。
「それ、夢見で作ったの?」
「ええそうですよ」
「胸張ってるところ悪いんだけど、それくらいなら、赤ちゃんにだって作れそうだけど……」
正直に言って、その旧神の印とやらのデザインはシンプル。不気味な感じはあるけれど、それくらいなら、浜辺の石ころに筆を走らせるだけでできそうだ。
わたしの言葉に目をパチパチさせたプリンちゃんは、こぶしをぎゅっと握りしめ。
「なにを言いますか。これは、旧神の力を知らしめるためのもので――」
「それのコピー品」
「……コピー品の中でも最上級のコピー品です」
どっちみち真似たものだと思うんだけど。
プリンちゃんは、次から次に、星印の石を生み出しては、足元にゴロゴロ転がしていく。
その一つをわたしは手に取る。やっぱり、不思議な力はなさそう。
レンの住人の一人が、こっちへ近づいてくるのが見えた。わたしは、その人に対して石を投げる。
まっすぐ飛んでいった石がコーンと頭にぶつかって、レンの住人は倒れた。
旧神の力っていうよりかは、物理的な力って感じだ。
わたしは標的を探すことにする。神様とか恐れそうなヤツ……ちょうどいいタイミングで、黒いガレー船の上でふんぞり返っているムーンビーストと目が合った。
「旧神の印を拾い上げて何をするつもりなのですか」
星の石製造機となっていたプリンちゃんが顔を上げて、そう言った。さっきの投擲は見ていなかったらしい。
「これをアイツに投げるんだよ」
ムーンビーストめがけて、旧神の印をぶん投げた。
レーザービームのように石は飛んでいって、グニグニとした筋肉質の横っ面に、ゴツンと当たった。
くるくる舞いあがった石。痛みにもだえるかのように黒い甲板を転がるカエルみたいなムーンビーストと、それの下敷きになるレンの男。
「効いてる感じしないけど」
「あ、あれ?」
「もしかしてだけど、神様の力は、夢見じゃコピーできないんじゃない?」
ひとしきりこどもみたいに転げまわったムーンビーストは、アザラシのようにゴロンと起き上がると、恨みがましい視線をこちらへと投げかけてきた。
短い手が動いたかと思えば――黒い槍が寸前にまでせまる。
反射的に、持っていたハクナギノツルギを振り上げる。
カキーンと快音がひびいた。直後、ウツロブネの甲板に槍が深々突き刺さった。
「あぶないじゃないですか!」
「ごめんごめん、急だったから」
「違います! アナタが死ぬんじゃないかって」
あの槍は、ワタシの心臓めがけて飛んできた。一歩間違っていたら、突きささっていたかもしれない。
背筋に冷たいものを感じずにはいられない。
同時に、非現実なものを感じずにもいられなかった。この世界は夢の世界に過ぎなくて、すべてわたしの脳が生みだしている幻に過ぎないんじゃないかって。
――だからこそ、わたしはプリンちゃんに笑いかけることができた。
「死なないってば」
プリンちゃんは、驚いたように目を見開いたけれども。
「どんな訓練をしていたのか知りませんけれど、
「うん」
わたしが頷けば、プリンちゃんがあきれたようにため息をついた。
ちょうどその時、空が暗くなって、雨が降りはじめたのである。
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