第14話
剣を持っているだけで、なんだか心の中に火がともった感じがする。
甲板への扉を開ける前に、一度だけ、剣を見た。
「ハクナギノツルギだっけ」
「……やっぱやめた」
わたしは剣を鞘に納めた。剣の使い方なんて習ったことがない。下手に切っちゃったら、この剣そのものがだめになっちゃうかも。
鞘ごとぶん殴ればそんなことにはならないだろうし、気にすることもない。
「うっし」
気合を入れて、扉を開けた。
ふたたびやってきた甲板では、人間とショゴスが戦っていた。
船員たちは、槍やら剣やらを片手に、数倍もの大きさの軟体生物をとり囲み、一斉に突きさす。
笛を吹いたような悲鳴が轟けば、ほかのショゴスは激怒したように飛びあがって、人間たちをぺしゃんこにしていく。
バキバキと何かが砕ける音がする。木の床が壊れる音なのか、人体の骨が木っ端みじんになる音か。
それを理解してしまう前に、わたしはプリンちゃんを探す。だが、甲板で繰り広げられている戦闘の中には、小さな魔法少女の姿はなかった。
「あれ、どこに……」
キョロキョロしているうちに、目の前に不定形の化け物がぴょんと飛んできた。着地の衝撃で、木くずが飛んでくる。
たくさんの目に映るわたしは、たぶん、おいしそうな獲物なんだろうか。
「テケリリだけじゃ、なんて言ってるのかわかんないよ!」
わたしは、両手にハクナギノツルギを握りしめ、思いっきりぶん殴る。
ぶよんと、その体に剣がめり込む。
重い。壁を殴っているみたいだ。
ふと、たくさんの目と合った。わたしとわたしが握りしめている剣とを行ったり来たり。その目は怖がっているように揺れていた。
ハクナギノツルギをこわがってる……?
ショゴスはもじもじしたかと思えば、ぴょーんと別の獲物へと飛び跳ねていった。
「あ、ちょっと!」
手を伸ばしたけれど、もう遅い。彼(もしかしたら彼女?)は汚いものでも払い落とすかのように何度かジャンプして、手すりの向こうの海へと飛んでいった。
そのとき見えたんだけど、黒いガレー船はかなり近いところまでやってきていた。
ガレー船というものをわたしは知らなかったんだけど、たくさんのオールがついていること以外はウツロブネ(わたしたちの船)とそんなにかわらない。
帆の先っちょ、オール一本一本まで真っ黒だから、ダンゴムシみたいだ。これが、宇宙を行き来するだなんて信じられない。
そんな黒いガレー船は、青い海を滑るように進んでくる。まっすぐ、わたしたちの船へと。
その船上には、この前見たばかりの角やらひづめやらを持った人々が武器を構えて立っていた。
さっきプリンちゃんが言ってたとおりじゃないか。
「っていうかそうだ。プリンちゃんはどこに――」
きょろきょろしていたら、船尾の方で大きな爆発音がした。
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