第9話

 歩きながら、プリンちゃんがくれた地図を見る。


 その地図は、ザラザラのパピルスに手書きされたもの。


 今、わたしがいるヴァクワク島は、地図でいうところの東の端の方にある。まわりは海に囲まれており、上――つまり北方向――には大陸がある。その大陸を西の方にこぶし10個分はいったところにウルタールはあった。


「とおいね」


「はい。大陸には危険生物が多くいるらしいので、船で西の方へと向かいます」


 ヴァクワク島から真横へプリンちゃんのちいさな指が伸びていく。


 その先に、オリアブ島というのがあった。


「この島を目標にしたいと思います」


「その間、ずっと船旅ってことかあ」


 わたしは、この世界に飛行機なんて便利なものは存在しないということを、さっき知った。


 この世界の人々は、陸路は馬を、海路は船を使っている。


 しかも、フェリーなんかじゃない。マンガでしか見たことのないような、帆を張った船だ。木でできてるし、本当に大丈夫なの、って思わずにはいられない。


「宇宙にも出られるので、攻撃でも受けないかぎり、沈むことはありません」


「こんな隙間だらけの船で宇宙に出るの!?」


 プリンちゃんがこくんとうなづき、地図の西と東の両端を指さす。


「ここから、宇宙へ出られます」


「うっそだあ、その先も海なんでしょ?」


「いえ、滝があります」


「え、なんて?」


「滝があります」


 わたしはなんどもなんども聞いて、プリンちゃんに頭を叩かれるまで同じことを聞いたんだけど、答えはいっしょ。


 海の果てに滝があるだなんて、そんなまさか。


 そういえば、昔の人も、同じように考えてたんだっけ。地球は平面で、海の果ては滝のようになっているんだと。


 となると、夢の世界の科学ってば、現実世界よりも遅れてるのかな。そもそも魔術ばっかりで、機械らしい機械を見たことがない。


「どこもこんな感じなの?」


 わたしは、まわりに広がる日本的町並みを見まわして聞いてみる。


 ヴァクワク城を出たわたしたちは、船が待っているという港まで歩いていた。


 道すがらに見える低い建造物は、時代劇でよく見る、長屋ってやつにそっくりだ。道だって、アスファルトじゃなくて砂利道だ。


「どことどこを比較してなのか知りませんが、そうですね、こんな江戸チックな町はここくらいのものですよ」


 かたく踏みしめられた道では、こどもたちがきゃっきゃと遊んでいる。その手には、ベーゴマが握られていて、だれのものが一番強いかを競い合っている。


 ちいさな手から路上へと放たれたベーゴマは、時にジャンプし、時に時空の果てへと消し、姿を変えながら、甲高い音を上げて激突しあっていた。


「……わたしの知ってるベーゴマと違う」


「似ているだけですから」


「っていうか、やっぱり日本のこと知ってるんじゃん」


「べ、別にいいでしょう。そのくらいなら、聞いたことがあるんです」


「だれに、いつ、何時何分何秒?」


「そんなこどもみたいな聞き方しないでください」


 ――恥ずかしい、ああ恥ずかしい。


 そう言いながら、プリンちゃんは先を急ぎはじめる。長い黒髪からのぞく、ツンととがった耳は、暑いわけでもないのに真っ赤だった。

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