第5話

 わたしが覚えているかぎりでは、日本にヴァクワクという名のついた島はない。あってたまるか、んなもん。


 でも、日本的なお城だしなあ。日本語も通じてるし、日本にあるとしか思えない。


 と。


 ――汝、夢の国へ行きたいか。


 そんな声がしたことを、今、思いだしましたよ、わたし。


 夢の国って遊園地のことかと思っていたけれど、もしかして。


 顔を上げると、プリンちゃんとニュニギ王が話し合っていた。わたしが考えこんでいる間に、あっちもなにか話し合っているらしい。あ、プリンちゃんがこっちを見た。


「名前、教えてください」


「みのり、現川みのりだけど。あ、みーちゃんって呼んでくれても――」


「みのりですね。あなたは、ナシュトとカマン=ターには会いました?」


「誰それ」


 わたしが言うと、プリンちゃんはちいさくため息。


「ここ、夢の世界へ来たことは?」


「はじめてだけど……」


「本当に? 覚えていないだけではなく?」


 ここ数日の夢を思いだしてみる。……全然おぼえてない。というか、夢を見たか見てないかさえわからない。


 黙っていたら、プリンちゃんがまたため息。そのうち、ため息でおぼれちゃいそう。


「あ……そういえば」


「どうかしました、なにか思いだしましたか」


「いや何も思いだせてないんだけど」


「…………」


「さっき、めちゃくちゃ体重たかったなあ、と思って。夢だったら痛みとか感じないんじゃないの?」


 わたしは、じぶんの腕をつねってみる。うん、めちゃくちゃ痛い。


 プリンちゃんに赤くなった手の甲を見せつけていたら、彼女はやれやれとばかりに首を振って。


「この世界は多くの生物の夢から成り立っている世界に変わりありません」


 ヒトではなく、生物……?


 どういうことなんだろう、まるで、この世界は、ヒトではない何かの夢からできていると言っているみたいじゃないか。


「――その通りです」


「なんでわたしの考えてることがわかったの」


「顔に出ています」


 わたしはペタペタ顔を触りまわす。そこには文字は浮かびあがっていない。


「出てないじゃん!」


「そういうわけじゃないのですが。それはさておき、夢の世界であることを飲みこんでいただかないと、話が進まないのでそういうことにしてください」


「わかった。でも、わたし信じてないからね」


 しかし、夢じゃないとしたら、この世界はなんなんだろう。現実逃避中のわたしが見ている妄想――とかだったらイヤだなあ。


 プリンちゃんがコホンと咳払いをする。長話をする直前の校長先生みたいだ。


「ここは夢の世界。だとしたら、ここに来られるのは」


「眠っている人……?」


「そうです。夢見人ドリーマーと呼ばれる存在は夢の世界へ来れます。もちろん、夢見人だからって、夢の世界でのことを覚えられるかっていうとまた別なのですが」


「普通の夢と同じだ。夢だから忘れちゃう」


「そうなります。だから、潜在的な夢見人は多いとされています。ただ、それを覚えていないだけで」


 そして――とプリンちゃんはつづけて、わたしを指さしてきた。


「な、なにかな。わたしはなにもやってないよ!」


「なんですか、いきなり。そうではなくて、みのり、あなたは夢見人ではありません」


「へ?」


 ここは夢の世界で、夢みる存在が来る世界。


 でも、わたしは夢見人ではないらしい。


「リアリストってこと?」


「ちがいます」


「ちがうんだ」


 じゃあ、なんだろうと思っていたら、プリンちゃんが目を見開いて、言った。


「あなたは、夢を見ることなく、夢の世界へと来てしまったのですよ!」


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