第6話
夢を見ることなく、夢の世界へ来た。
なんて矛盾に満ちた言葉なんだろう。
大事なことを言ってやったとばかりに晴れ晴れとしているプリンちゃんには悪いんだけど、まったく意味が分からなかった。
「なにか心当たりはありませんか」
と言われても、パッと思いつくようなことは――。
いや、めっちゃあるな。
「この世界に来る前のことなんだけどね」
わたしは、闇のなかで出会ったお坊さんと、そのお坊さんに言われたこと、落下の最中に起きた変化について、プリンちゃんとニュニギ王に話した。
「本当に、そのお坊さんを見たのかい?」
驚いた様子でニュニギ王が言う。
「見たけど……もしかして見たら呪い殺されるとか、そういう?」
「いや、そうじゃないが。君の言うことが本当だとしたら、『
「ゲートキーパー?」
「この人が? 夢見人でもないのに?」
プリンちゃんのことばは、わたしをバカにしたような響きがあった。でも、なんでバカにされてるんだろ?
「その方は、神にも――いえ、一説によると神とさえ言われるような方ですよ。なんで、一人の少女に力を?」
「さあね。どうして、そのお坊さんと出会ったんだい?」
「えっと、おじいちゃんの蔵に隠れてて、そうしたらいきなり壁がくるんって。気がつけばあのお坊さんがいたところに」
「隠し部屋――みのりのおじいちゃんってなにものなの」
「何者っていわれても」
わたしはおじいちゃんを思いだす。
ブライアンおじいちゃんは、アメリカ生まれアメリカ育ちの生粋の米国人。わたしの倍以上も身長があって、ガタイがいい。顔はフランケンシュタインを想像してもらえれば、八割がたあってる。
「見た目は怖いんだけど、物静かで優しい人だったかな」
「いや、外見や内面を知りたいんじゃなくて、何をしてたか聞きたいの」
「小説を書いてるって言ってたっけ。それから、ホラー小説を集めてて、ボストンの大学で非常勤講師をやってたこともあるとか」
大学の名前ってなんだっけなあ。おじいちゃんは、『忌まわしいミス大』としか言ってなかったから、わかんないや。
わたしが発した『ミス大』という単語に、プリンちゃんが目を大きくさせた。
「知ってるの、プリンちゃん!?」
「まあ……ミスカトニック大学ですね」
「うわっ、確かそんな大学だった気がするよ、よくわかったね」
わたしはプリンちゃんに抱きつく。頭をなでなでしてあげる。喜ばれるかと思って、プリンちゃんを見たら、ブラックコーヒーをはじめて飲んだ人みたいな顔をしていた。
「ろくでもない学校ですので」
「ろくでもない」
「まあ、あなたのおじいちゃんのことはわかりました。あの大学の関係者なら、かの神と接点があってもおかしくありません」
あの神とかかの神とか、プリンちゃんたちは、その神様のことを口にしようとしない。
おじいちゃんの知り合いなら、気になるんだけど。
「何て名前なの?」
「教えません」
「なんでさ」
「教えたら、絶対口にするじゃないですか」
「まっさかあ、それに、口に出しちゃいけないの?」
プリンちゃんはおおきく頷いた。ガクンガクンと何度も。真剣そのものだったので、わたしはそれ以上聞かないことにした。
プリンちゃんの言うとおり、わたし、知らない間にぽろっと言っちゃいそうだしね。
「肉体を持ってこれたわけですよ、あの神が噛んでるなら当然です」
「『全にして一、一にして全』――」
プリンちゃんとニュニギ王が、訳知り顔で頷きあっている。
「ま、まって。わたしを置いてかないで。ちゃんと説明してよっ」
「門の守護者って言ったでしょう。かの神が管理している門を通って、あなたは夢の世界へとやってきたというわけです」
「じゃあ、戻るためには……」
「その神様にでもお願いするか、ほかの手立てを考えないといけないでしょうね」
プリンちゃんは眉間をもみもみしながら、言った。
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