第3話 初めてのグローブと父親との時間
篠崎雄大が5歳を迎えた頃、彼の生活には新たな変化が訪れた。幼稚園の帰り道、父親が彼に何かを渡してきた。
「雄大、これはお前にとって特別なものだぞ。」
父親が手渡してくれたのは、まだ新品の小さなグローブだった。雄大の手にぴったりと収まるそのグローブを見つめた瞬間、雄大は心の奥底から喜びが溢れてきた。
「これ、僕の?」
雄大は目を輝かせながら父親を見上げた。父親は優しく微笑みながら頷いた。
「そうだ。お前の初めてのグローブだ。これから一緒に練習しような。」
その夜、夕食を終えた雄大と父親は、家の前で初めてのキャッチボールをした。まだ投げる力が弱く、ボールを上手くキャッチすることもできなかったが、それでも雄大は夢中でボールを追いかけた。父親はゆっくりとボールを投げ、雄大がキャッチできるまで何度も繰り返した。
「ゆっくりでいいんだ。まずはボールに慣れることが大切だからな。」
父親の言葉に励まされ、雄大は少しずつボールをキャッチできるようになっていった。毎晩続くこの時間は、雄大にとって何よりも楽しみな時間になった。
日が暮れる頃になると、父親はボールを投げる手を止め、雄大に声をかけた。
「もう今日はこれで終わりにしようか。明日もまたやろうな。」
しかし、雄大はその言葉を聞いても、まだボールを手に握りしめていた。彼の中にはもっと上手くなりたい、もっと練習したいという気持ちが溢れていた。
「お父さん、あと一回だけ!」
その一言に、父親は少し驚いたような表情を見せたが、すぐに笑顔に戻り、ボールを手に取った。
「よし、じゃあ最後の一球だ。」
父親が投げたボールが、ゆっくりと雄大の元へ向かう。雄大はしっかりと構え、グローブを差し出してボールを受け止めた。小さな手の中に収まるボールの感触が、雄大の心に強く刻まれた。
「やった!」
雄大は満面の笑みを浮かべ、父親に向かってボールを返した。その日の最後のキャッチボールは、雄大にとって特別な思い出となった。
夜になり、ベッドに入った雄大は、自分のグローブを握りしめながら、父親との時間を思い返していた。まだ幼い体でありながら、彼の心には確かな目標が芽生えていた。
「このグローブで、もっともっと上手くなって、いつか本当にすごい選手になってみせるんだ。」
彼はそう決意し、静かに目を閉じた。これからの長い道のりを思うと、その第一歩を踏み出したばかりであることを感じながら、雄大は夢の中で再びボールを追いかけた。
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