第2話 幼少期の記憶と成長

篠崎雄大がこの新しい世界に生まれ落ちてから、5年の月日が流れた。前世の記憶を持ちながらも、赤ん坊の体に馴染むまでには時間がかかった。彼は自分が生まれ変わったことを理解し、この世界で再び生きることを受け入れたが、それでも最初の数年間は、まさに赤ん坊としての生活に翻弄される日々だった。


生まれたばかりの雄大は、何よりもまず言葉を理解し、この世界の常識を学ぶ必要があった。幸い、言語は前世の日本語とほとんど変わらなかったため、彼は比較的早く周囲の会話を理解できるようになった。しかし、言葉を話すことは別問題だった。赤ん坊の口は思うように動かず、もどかしい思いを抱えながらも、少しずつ単語を発する練習を重ねていった。


「ま…まま…」


初めて言葉を発したとき、母親は涙を流して喜んでくれた。その姿を見て、雄大は自分がこの世界で新たな家族に恵まれたことを強く実感した。


雄大が2歳になる頃には、走り回ることができるようになり、体の自由もかなり利くようになった。公園で他の子供たちと遊ぶ日々が続き、彼は自然と体を鍛えていった。この頃から、彼の中に眠っていた野球への情熱が再び頭をもたげ始める。


「ボール、ボールが欲しい…」


それが彼の心の中で、日々強くなっていく欲求だった。だが、まだ幼い体では思うようにボールを扱うことができなかった。公園で他の子供たちがボール遊びをしているのを見て、じっと見つめるだけの時間が続いた。


3歳になると、父親が彼に小さなソフトボールを買い与えた。これが、雄大の人生を再び野球へと導く大きな一歩となった。彼は毎日のようにそのボールを手に取り、家の中で投げたり転がしたりして遊んだ。まだ投げ方も分からないし、ボールをキャッチするのも難しかったが、雄大は一生懸命に練習を重ねた。


4歳の誕生日を迎える頃には、彼はすでに簡単なキャッチボールができるようになっていた。父親と一緒に公園でボールを投げ合うことが日課となり、彼の投げる力も少しずつ強くなっていった。


「すごいな、雄大。もうこんなに上手に投げられるんだ。」


父親からの褒め言葉は、雄大にとって何よりの励みだった。そして、彼の中で眠っていた前世の記憶が、徐々に形を成していった。雄大は、この体で再び野球を始める日を心待ちにしていた。


5歳になった頃、雄大は近所の幼稚園に通い始めた。そこでも彼はボールを持ち歩き、友達と一緒に遊びながら野球の技術を磨いていった。周囲の大人たちからは「元気な子だ」と評されることが多かったが、彼の中では、すでにプロ野球選手としての夢が再び燃え上がっていた。


「この世界でも、絶対にプロになってみせる。」


まだ幼い雄大の心には、前世で果たせなかった夢への強い決意が根付いていた。彼の人生は、これからどのように展開していくのか。次の章で、その続きが描かれることになる。

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