第5話 俺は山賊じゃない!!
「待ってくれ、俺は山賊なんか知らない」
そう言うと少女は、体を起こし冷たい目で俺を見下ろす。
「知ってる人って、いつも知らないって言いますよね」
「知らない人だって知らないって言うだろ?」
「どうでしょう」
少女は全くもって、俺の主張を聞く気がないらしい。
だがこの問答だけでもわかることがある。
少女は山賊を探し当てることに、何か焦りを感じている。だから、俺が山賊と関係があることを強く望んでいるのだ。
「山賊を……すぐに見つけなきゃいけない?」
少女の体がぴくりと揺れる。ビンゴのようだ。
山賊を見つけるのに急がなくちゃいけない理由として最も考えられるのは、ずばり、人質の存在だ。
「……人質をとられた?」
少女はぎゅっと唇を噛み占める。
「それは……君の大切な人?」
そう言い切る前に、少女が俺の顔面を殴りつける。
「うるさい! なんでお前にわかるんだ! やっぱりお前、山賊の一味だな!」
何度も何度も殴りつけられ、鈍い痛みが顔面を覆う。口の中が切れたのか、鉄の味もしてきた。
とても少女とは思えない、力強さだ。
「ストップ、しゃべれなくなる」
俺は少女の殴る合間に、なんとか自分の言葉をねじ込んだ。
しかし少女の手は止まらない。
俺は思い切って強く怒鳴りつける。
「大切な人を助けたいんだろう!? まずは冷静になれ!!」
少女はびっくりしたのか、思わず殴る手を止めた。
その隙に俺は無理やりに体を起こす。すると少女はベッドから床に転げ落ちる。
「うにゃぁ」
そんな悲鳴が聞こえた。少女を傷つけたことには胸が痛む……なんて言っている場合ではない。
俺は少女の両肩をつかむ。
「大切な人を助けたいなら俺を使え! 俺は、頭がいい!」
少女はぽかんと口を開けている。
頭をうって、理解できなくなってしまったのだろうか。
俺はもう一度、言葉を繰り返す。
「つまり、大切な人を助けることに協力できるから、殴るのはもうやめてくれ」
そうして痛みやら疲労やらで限界を迎えた俺はベッドにまた倒れこんだのであった。
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