第4話 裸の美少女は踊る

 これは夢だ。

 そうはっきりとわかったのは、裸の美少女が湖で踊り狂っていたから。

 俺も湖に浸っているのに、冷たさは一切感じられない。

 俺はただ、踊る少女を見守っていた。


 銀色のやわらかいロングヘアは水にぬれ、美少女の体にまとわりつく。胸に生えた獣の体毛もまた、体にぴったりとまとわりついてその体つきをあらわにした。

 細く、しかしやわらかそうな体つきをみるかぎり、俺と同い年くらいだろう。


 しかし、なぜ少女は踊っているのだろうか。

 すると少女はゆっくりと俺に近づいてくる。その姿はさながら、地獄へと誘う悪魔のようだ。

 少女は細い手をしゃなりと俺に伸ばす。俺も誘われるがままに、そのまま手をのばす。


 そこで俺はハッと目を覚ます。

 目の前に広がっていたのは、古臭い木でできた天井だった。あえて言うならば、知らない天井だ。


「目が覚めましたか?」


 そこにいたのは先ほどまで夢の中で裸で踊り狂っていた少女だった。

 俺は思わず気まずくなり、目をそらす。

 少女も裸を見られたことを思い出したのか、ぽっと頬を赤く染める。


「そ、そんなことより体調はどうですか?」


 少女はそう言って、俺の額に手を当てる。ひんやりと冷たく、俺は思わず目を閉じた。


「うーん、やっぱりまだ熱がありますね」


 そう言いながら、少女は木の器を持つ。そしてその中身をスプーンですくい、俺の前に差し出す。

 得体のしれないものに、俺は思わず鼻をひくつかせる。

 ミルクのようなまろやかで甘い香りに、俺の腹はぐぅっと鳴った。


「さあどうぞ」


 俺はその言葉にこらえがきかず、スプーンを口に含む。

 牛乳かなにかに、はちみつをまぜこんだような味がする。とても優しい味だ。


「どんどん食べてください。そして早く元気になってくださいね」


 少女はそう言ってにっこりとほほ笑む。

 俺はほっとしながら、少女に問いかける。


「なんでそんなに優しくしてくれるんですか?」


 すると少女の顔は笑顔のまま、それでいて険しくなったような気がした。


「そんなの簡単ですよ」


 そして次の瞬間、俺はベッドと少女の間に挟み込まれる。

 少女の髪が天蓋のように、俺の視界を覆いつくす。


「あなたが山賊と関係あるのか、確かめるために決まってるでしょう」


 部屋の隅に目を向ければ、世界史の教科書でしかみたことがないような大量の拷問器具が並べられている。


「さあ、はやく元気になってください」


 そうして少女はにっこりとほほ笑む。

 先ほどの夢はやはり正夢だったのだ。

 彼女は悪魔だ。

 

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