第3話 美少女、現る

 何かの言っていた通りにするのは癪だったが、それでも俺は世界のことが知りたかった。

 だからまずは自分のいる場所を確かめることにした。


 桃色や紫色の木々がひしめき合い、湖の水は光をおびたようにきらめいている。明らかにここは俺の知る世界ではなかった。


 空を見上げると、太陽はどこにも見当たらない。一体何が光源になっているのだろうか。

 しかし考えようにも、この世界のことがわからない。

 とにかく、まずは話のできる相手を探したかった。


 俺は湖から伸びている川を下ってみることにした。いつだって文明は川沿いに栄えてきた。きっと、この世界もそうだろう。……そうであってほしい。


 俺は祈るようにしながら、川を下り始める。


 結論から言えば、俺の予測は当たっていた。

 しばらく歩いていると、石造りの家の集まった街が見えてきたのだ。


 俺はほっとしながら、街に近づいていく。しかし近づいてみて驚いた。そこにいるのは人間だけではなかったのだ。

 耳が獣のものだったり、下半身がとかげのそれだったり、とにかく現実では見たこともないようなものばかりだった。とても声をかける気にはなれない。


 幸い、姿に異常のない人間を見つけたため、俺は声をかける。


「あのぅ」


 金髪の背の高い女性の背中に俺は声をかける。すると彼女はゆっくりと振り返り……。

 その目は猛禽類のそれだった。


「うわぁああああ!」


 俺は思わず声を上げて逃げ出す。

 もしかしたら、ここは人食い魔物の街なのかもしれない……!

 だとしたら、急いでここを離れなくては。


 こうして俺は来た道を一目散に戻っていく。

 とにかく話のできる相手を探す、その目標はすでに頓挫しそうだった。




 それから数日、俺は頭の中の何かが目覚めるのを待って、湖のそばで過ごしていた。

 しかし、ここでは口にできるものが水しかない。

 俺の体力もそろそろ限界に近かった。

 俺は力なく地面に横たわる。


 ガサリガサリ……。

 

 獣だろうか? 何かが藪をかき分ける音が聞こえる。

 俺は静かに体を起こし、音の方を見つめる。


 そこには美少女がいた。

 銀色のやわらかいロングヘア、紫色の思慮深そうな瞳、影をおとすほどに長いまつ毛。

 正真正銘の美少女だ。


 彼女はその場でするすると服を脱ぎ始める。

 俺はドキマギしながらも目を離すことができない。


 すると立派な尻尾が彼女から生えているのが見えた。

 さらに、胸のあたりにはしっかりと獣の毛が生えている。


 彼女も人を食べるのだろうか……。

 そうぼんやりとながめていると、彼女と俺の目がはっきりと合った。合ってしまった。


「きゃああああああああああああああああああ」


 彼女はそう悲鳴を上げると、体を覆う。

 しかし俺の反応がないことに何か違和感を感じたのだろう。

 ゆっくりと水の中を進んで、俺に近づいてくる。


 俺の焦点の合わない目は、それでも彼女の美しい裸体をはっきりと捉えていた。

 しかし彼女はそれどころではなかったのだろう。


「大変、死にかけてる!」


 その声を最後に、俺は意識を手放した。

 

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