第2話 ここは異世界?

―そこの男……そこの男子……おい、そこのクソ野郎!―


 突如、俺の頭の中に声が響き、目の前がぐらりと歪む。

 ずいぶんかわいらしい女の子の声だ。

 俺は思わず走る足を止めた。

 声の主は誰だ? でも探しても探しても見つからない。

 


―お前の頭の中だ!―


 頭の中にコンッと何かがぶつかる。本当に頭の中に何かがいるようだ。

 俺は思わず髪をぐしゃぐしゃとかき回した。しかし何かはずっと頭の中を暴れ回る。


―お前、さっき、私を食べただろう―


 その一言に、ハッと俺は口を押える。

 さっき吞み込んだ、祠の玉……。あれが俺に話しかけているんだ。


「あなたは神様ですか?」


 俺は疑問を口に出す。すると頭の中で何かがころころと転がりだす。

 どうやら笑っているようだ。


―私が神? そんなわけないだろう―


「じゃあどうして祠の中に?」


 何かは頭の中でぴょんぴょん飛び跳ねている。正直、脳みそをかき回されているようで心地悪い。


―私は神に閉じ込められたんだよ。でもようやくこうして外に出られたー


 俺の背中にひやりと嫌な汗がにじむ。つまり、俺は何か邪悪なものを吞み込んだ? 思わず吐き出そうと口の中に指を突っ込む。


―無駄だ。お前は脳みそを口から吐き出せるのか?―


 答えは否だ。

 俺の口からは何も出てこない。


―お前、現世に帰りたいか?―


 そう問われて、俺は一瞬答えに窮する。

 俺は知りたかった。ここがどこなのか、ここがなんなのか。


―ふぅん。好奇心に支配された男だな。まあ良い。ここにはお前の望む、謎が山のようにある。それを調べてみたいか?―


 調べたくないと言ったら嘘になる。けれど、現世にはアンナがいる。戻りたくないわけでもないのだ。


―いいじゃないか。ゆっくり、この世界を調べてから戻ろう。ついでに神を倒してみせよう―


 神を倒す? この世界には神がいるのか? いや、それ以前になぜ神を倒す話になるのだろう。


―私を封じ込めた神がこの世界にいるんだ。倒してくれたら、お前を元の世界に戻してやろう―


 つまり、倒さなければ戻れないということか。

 頭の中の何かは実に愉快そうに転げまわる。


―でも保障しよう。この異世界にはお前が望む謎が山のようにある。きっと退屈はしないさ。さて、私はもうひと眠りしようかな……―


 そして、何かはそれっきりしゃべりだすことをやめた。

 俺が何かを話しても、やはり返事はなかった。


 ここは異世界。

 ここには俺の望む謎がある。


 そう思うと、どこかワクワクしてきてしまうのは俺の悪い癖だった。

 

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