第4話 霊能力者①
【本文】
2055年。
遺族会等の訴えにより、幽霊の人権を認めるための法案が提出される。
これが可決されると霊磁装置の使用に制限がかかることとなる。
結局この年に当法案は可決までには至らなかったものの、霊磁業界は大きく震えることとなった。
①
「このたびは実験にご応募いただき、改めましてありがとうございます。この中部第二研究所、所長の藤原と申します」
天井も壁も床も、すべてが真っ白な個室。
その中央に置かれた鉄製のデスクを挟んで座った50代と思われる白衣の男性がそう名乗った。
白髪交じりの髪、口の周りに短く生えた髭。若干中年太りをしているようだが、猛禽類を彷彿とさせるような鋭い目をして威圧感のある金縁の眼鏡をかけており、どことなく怖そうな人だなと感じた。
「研究員の降旗と申します。よろしくお願いします」
藤原さんの隣に座った30歳くらいと思われる男性が優しそうな笑みで同じように挨拶。
こちらも白衣を着ており、凛々しい眉と日焼けした肌、口の隙間から覗く八重歯が印象的だ。
わたしは二人に向かって座りながら頭を下げた。
「よろしく、お願いします」
「ではさっそくですが、あなたの霊能力が本物か、これからいくつかの質問をさせていただきます」
藤原さんが淡々とそう言うと、すかさず降旗さんが八重歯を見せて笑みを浮かべ、温かな声音で付け加える。
「緊張しなくて大丈夫ですからね」
「はい……ありがとうございます」
よかった。藤原さんは怖そうな感じだが、降旗さんは正反対な雰囲気で安心した。
降旗さんは一度咳ばらいをして喉の調子を整えてから、手元の資料とわたしを交互に見ながら質問をしてくる。
「あなたの名前を教えてください」
「水原楓(みずはらかえで)です」
「年齢は?」
「23歳です」
「今回の実験に応募しようと思ったきっかけは?」
「大学時代までは、幽霊の姿が見えるだけで、何か喋っていても声までは聞えなかったんです。それに、蜃気楼のようにぼんやりとしているという感じでした。けれど、社会人になってすぐの頃から、はっきりと見え、声が聞こえ、会話までできるようになってきたんです。昔から映像で見るときは幽霊かどうかは一目でわかったのですが、今ではそうでないと幽霊だと気付けないくらいに」
会社に入って間もなくのことだった。
デスクでパソコンに向かい仕事をしていると、カジュアルな服装で首から名札を下げた社員と思しき女性に「その書類、課長に渡しておくから貸して」と言われた。
それは課長の指示で作成していた書類だったし、まだ入社したばかりで社員全員の顔を把握してなかったわたしは何の違和感もなく渡してしまった。
その翌日、課長から書類作成はどうなってるのか尋ねられた。
わたしはある女性社員に書類を渡したこと、そして彼女の特徴を話すと、課長は急に顔ざめた顔になった。
結局書類の再提出を求められて、もう一度書類を用意することに。
その時は、課長の書類の管理が適当なのかなと思うだけだった。
しかし後日、そうではなかったと気づくことに。
初めての残業をして帰りが遅くなった日、まだ残っている二人の先輩に「お疲れさまです」と言ってオフィスを後にし、廊下に出た時だった。
ふらりと、どこかへ歩いていくあの時の女性社員の姿が見えた。
エレベーターとは反対の方向。そちらの方のオフィスの明かりは消え、もう誰もいない。忘れ物でもしたのだろうか。
そう思って女性社員の背中を見つめていると、彼女は廊下の一番奥まで行ってしまった。
オフィスに用があったのではない。その先の非常階段に行きたかったようだ。
そのまま非常階段へと出た彼女。
わたしは何かの力によって突き動かされるように、彼女の後を追った。
その時点で、わたしは何となく予想がついていた。
だが、確かめなければいけないと思ったのだ。
廊下の一番奥まで着き、非常階段へ出る扉を開ける。
その瞬間、都会の騒音が一気に耳に響いてきた。
けれども、そこには――誰もいなかった。
ひとまず安心しつつ、せっかくだから夜景でも見てみようかなと非常階段に出てみる。
すると、ぎぃぃぎぃぃと鉄と布のようなものがこすれるような音が聞こえた。
何かが非常階段に引っかかっているのだろうかと、手すりから外に乗り出して、上、下の順に見てみる。
「――ひっ!」
自分が掴んでいる手すり、そこからロープが垂れ下がっていた。
そしてその先には、あの女性社員が首をくくったかたちでぶら下がっていたのである。
恐怖や驚きのあまり一度飛び退いてしまったが、すぐに急いで助けなきゃと思いロープを引っ張ろうをするが――
「あれ……」
――手すりにロープなんて付いていなかった。
また身を乗り出して、恐る恐る下を覗いてみるが……何もない。
落ちてしまったわけでもなさそうだ。
……ああ、やっぱり幽霊だったのか。
そう理解すると、むしろわたしは冷静になれた。
物心がつく前から何度もあることだったからだ。
ただ、幽霊と会話ができたことは初めてだった。それだけは驚きだ。
その後も幽霊とは知らずに話していたなんてことが何度かあり、上司からはストレスでおかしくなったとでも思われたのか、一度産業医のカウンセリングを受けてみるように言われた。
わたしもこのままではどんどん悪い方向へ行ってしまうような気がして、その提案に従いカウンセリングを受け、とりあえず一ヶ月間の休職をいただくことに。
その休職期間に、今回の被験者募集の広告を見つけたのである。
「それで日常生活にも支障が出るようになったため応募しました。国の霊磁研究所が、この力を消す研究をしてるという広告を見たので」
まだ発展途上の技術でもなんでもいい。
この力がなくなることは幼い頃からの夢だった。
わたしは藁にもすがるような思いで応募した。
「そうでしたか」
降旗さんはそう言って深々と何度も頷きながら紙に何かをメモしていた。
その隣で、わたしが質問を受けている間ずっと黙りっきりだった藤原さんがぶっきらぼうに口を開く。
「水原さん、あなたに霊能力が備わってることはよくわかりました」
「これだけで、ですか?」
まだ簡単な面接しか受けていない。
幽霊が見えるだなんて話、ただの与太話かもしれないのに。
本当にこの研究所は大丈夫だろうかと不安になりつつわたしに、藤原さんが答える。
「はい、充分です。なぜなら、この部屋には私とあなたしかいないから」
「え?」
わたしは最初、その言葉の意味が理解できなかった。
人は、あり得ないと思い込んでいることを突然言われると、一瞬思考が停止するものだ。
するとそんなわたしに、それまでずっと険しい目付きだった藤原さんが若干朗らかに笑って見せた。
「いやあ、驚きました。急に見えない誰かと話を始めるものですから。数値的に見ても、あなたの力は相当なようですね」
そう言って藤原は、何やら手帳サイズの機器を手に取って確認していた。
わたしはそこでようやく、自分が何を言われたのか理解できた。
この部屋には、わたしと藤原さんしかいない……?
……ああ、なるほど、そっか。
降旗さんも幽霊だったんだ。
藤原さんの隣に目を向けると、そこには誰も座っていなかった。
②
霊能力が確認されたことで、わたしは正式に実験の被験者となった。
藤原さんから簡単にこれからの実験スケジュールを聞き、その後、被験者として過ごす部屋へと案内される。
わたしたちは小部屋を出て、廊下を歩きだした。
この研究所の中は、先ほどの部屋同様にすべてが真っ白だった。
清潔感があっていいかもしれないが、ずっと見ていると目が痛くなりそうである。
「先ほどは冷たい態度を取って申し訳ありませんでしたね。霊能力者だと嘘をつく人も多いせいで、まずは疑ってかかってしまう癖がついたようです」
二歩前を歩く藤原さんが穏やかな笑みを半分だけ見せてそう言った。
「いえ、多額の報酬もあるわけですし、そうなるのは仕方がないことだと思います」
この実験で被験者は、二週間拘束されて様々な検査を受けることとなる。
その上、認可を受けていない薬の投与もあるため、それなりの額が報酬として出されるというわけである。
そうなれば、その報酬目当てで霊能力者を偽る者が現れても不思議はない。
廊下を進んでいくと、真っ白な壁に車のフロントガラスほどの大きさのホログラムが掛かっているのが見えてきた。
ホログラムにはリラックスできるような自然豊かな映像と、今日の日付や気温などが表示されている。
2056年 8月 7日 11:05 気温23℃ 湿度48%
ホログラムを見た藤原さんが思い出したかのように言う。
「そういえば、もうすぐ幽霊の存在が科学によって証明されてから12年になりますね」
「もうそんな経つんですね」
当時わたしはまだ小学生だった。
8月最後の日、到底終わりそうもない夏休みの宿題と戦っていたわたしに母親が「すごいニュースやってるよ」と教えてくれたのを覚えている。
けれど、わたしは思ったほど衝撃は受けなかった。
幽霊が見えるのもそこに存在するのも、わたしにとっては至極当然のことで、今更それが科学で証明されたからといってなんだという感じだったからである。
「水原さんはお若いですから、そう思うのかもですね。ですが私からしたら”まだ”12年なのか、という感覚です」
藤原さんは表情こそ柔らかいものの、機械のような口調で話す。どことなく、大学の教授の講義を思い出す。
「この12年で日本のいくつかの大学に霊磁研究を専門とする学科が設立され、各地に霊磁研究所が建てられました。どれも多大な資金を必要とするのに、たった12年で、です」
「そう思うと確かに、霊磁分野としては激動の12年かもしれませんね」
「しかし、その激動の12年間にも、霊能力者という存在は解き明かされなかった。いや、解き明かされようともしなかった。なぜなのか」
「……霊能力者を名乗るほとんどの者が偽物だったからですね」
「そう、そのせいで、幽霊は科学的に証明されたにもかかわらず、霊能力者は虚言をのたまうだけの存在として位置づけられた。僅かな”本物”には目もくれず、ね」
当時は霊能力者という存在に変にスポットが当たるかたちとなった。
幽霊が科学で証明されたのならば、霊能力者も何かしらの科学的根拠があるのでは、と。
しかし、霊能力者のほとんどが偽物であったため、結果として多くの人に霊能力者の印象が悪くなることとなったのだ。
連日、世間のテレビ番組やSNSでは霊能力者叩き。
単にわたしがその話題にアンテナを張っていただけなのかもしれないが、確かにわたしの目にはそれが入り、激しい自己嫌悪に襲われた。
藤原さんは眼鏡の縁を持ち上げて言う。
「その昔、様々な病は悪霊によるものだとされていた時代がありました。しかし、現代において病とは、科学で証明され、薬によって治療されるものです。私はね、霊能力者もそうだと思うんですよ」
「……霊能力は病気だと言いたいのですか?」
「ああ、申し訳ありません。言い方が悪かったですね。病気とまでは言いません。しかし、霊能力も科学的に説明がつくものだと言いたいんです」
藤原さんは立ち止まり、こちらを振り返って真っ直ぐにわたしの目を見る。
「あなたのように悩んでいる人は、全世界にまだまだいる。そんな人のために、私は霊能力を解明し、取り除く方法を見つけたいんです。10年後には、霊能力を薬で解決できる未来を目指して」
どこか無機質な言い方ながらも、しっかりとした誠実さを感じた。
「改めまして、ご協力感謝いたします」
藤原さんに深々と頭を下げられ、自分よりも遥かに年上の人にそんな態度を取られたことで居たたまれなさを感じた。
「い、いえっ、わたしの方こそ藤原さんの研究が実現したら願ったり叶ったりですのでっ」
わたしの気持ちを悟ったのか、藤原さんは頭を上げると小さく笑い、右手を差し伸べて言う。
「一緒に頑張りましょうね」
「はい」
わたしは彼の手を取り、固い握手を交わした。
霊能力をもって生まれ、死ぬまで背負っていかなければいけないものかと諦めていたが、思わぬ逆転劇だ。
藤原さんと出会えて本当によかった。
その日からわたしは研究所に暮らし、様々な投薬や検査を受けることになった。
宿泊する部屋は、研究室や廊下と同じ真っ白かと思いきやそうでもなく、まるでホテルのスイートルームのような内装や家具だった。
寝室と居室が別になっており、それぞれがかなりの広さだ。ベッドはクイーンサイズ、バスタブはジャグジー付き。
冷蔵庫の中にはシャンパンやフルーツが備えてあるが、言えばどんな食品でも取り寄せてくれるらしい。可能な範囲で。
結構な報酬もあるのに、こんな好待遇でいいのかと思ってしまう。
部屋を出ればここの職員も利用するカフェテリアやシアタールームもあり、自由に使っていいとのこと。
一日1,2時間の検査の時間以外は自由に過ごしていいので、退屈しのぎのできるシアタールームは助かる。
そんな環境で暮らし始め、一週間が経とうとした日。
投薬や検査を受け、最後に藤原さんと一対一で問診を受けていた時だった。
一通りの問診を終え、藤原さんがデスクでカルテのようなものを書いている時、わたしは手持ち無沙汰になって何気なく辺りを見回していた。
他の研究室や廊下と同じ、真っ白な部屋。
ほとんど問診をする時以外は使わないこの部屋は、レントゲン写真を見ることのできるデスクや書棚が少しあるくらいで、霊磁装置のような機械の類はない。
それゆえ、少しだけ他の部屋よりは開放的で、庭や廊下が見える大きな窓があった。
その廊下側の窓に目を向けた時、ふと小さな男の子が横切っていくのが目に入った。
小学校高学年くらいだろうか。スポーツ刈りだが、あまり日焼けはしていない。
一瞬、ここの研究員の子どもが遊びにきたのかとも思ったが、被験者が着る薄茶色のサムイを身に着けていることから、わたしと同じ被験者なのだと分かった。
「あんな子どもまでいるんですね。小学生くらいですか?」
「え?」
藤原さんはきょとんとして振り返り、窓の方をしばらく無言で見つめた。
「ああ、なるほど」
そしてわたしに向き直り、申し訳なさそうに微笑する。
「すみません。他の被験者の方の情報は些細なことでも話してはいけない決まりになっているんですよ」
「ああ、そうですよね」
「申し訳ないのですが、他の被験者の方と会話をするのもできればお控えください」
「結構厳しいんですね」
「はい、実験内容は人それぞれで、そのすべてが機密情報扱いですからね」
言われてみればそうか。
あまりの待遇に、うっかりリゾートホテルに泊まってるような気分になりかけていたが、ここは国の研究機関だ。
その上、研究してる分野は各国がリードを作ろうと躍起になっている霊磁研究。
冷戦時の宇宙開発のごとく、その研究内容の一つ一つがどこにも漏れるわけにはいかない情報となる。
その時のわたしは、藤原さんの言う通りにしようと思った。
検査が終わり、夕食までの暇を潰そうとシアタールームに足を運ぶと、すでに誰かが何かの映画を観ているところのようだった。
二十席ほどしかない小さな劇場のような部屋は、照明が落ち、スクリーンには海外のヒーローアクション映画が映写されている。
しかし、見たところ席には誰も座っていないようだが……。
いや、よく見ると最前列の中央の席に小さな頭がちょこんと出ていた。どうやら子どもようだ。
この研究所にいる子どもなんて一人しか心当たりがない。先ほど問診の時に見たあの男の子だろう。
映画の中で爆発音が鳴り響いた。
けれども、わたしの頭の中には、その爆発音をかき消すようにして軽快なバイオリンのメロディーが流れ始めた。
小学校の修学旅行で行ったテーマパーク。クラスメイトたちがそれぞれのグループで楽しく回る中、霊能力のせいで不気味がられていたわたしは誰とも組むことができず、ただ一人でベンチに座って過ごした。その時に一日中聞いていた音楽だ。
わたしは、一人でぽつんと映画を観る男の子が、昔の自分に重なって見えた。
「ねえ、君も幽霊が見えるの?」
気が付けばわたしは男の子の隣に座り、こっそりと声をかけていた。
わたしは昔から、先生のいうことをよく聞く子だった。
率先して先生の手伝いをしたし、宿題だって忘れたこともない。
ただでさえ幽霊が見えることで不思議な子ども扱いされることが多かったため、それ以外のところで点数稼ぎをしておこうと思っていたのだ。
そんなわたしが藤原さんの言いつけを破る今の行動をしたのは、自分ですら驚きだった。
だが、それほどまでに、その男の子を一人にしたくないという思いが強かったのである。
一方で、話しかけられた男の子はぎょっとした顔をわたしに向けてきていた。
きっと彼も、被験者同士で話をしてはいけないと言われているのだろう。
だから、わたしに急に話しかけれたことで、どう対応していいか分からなくなっているようである。
「大丈夫だよ、映画を見てるふりしてれば話してもバレないから」
男の子はわたしの姿を上から下まで見て、目をまん丸くした。
「お姉さんも、見えるの?」
男の子はがっつりわたしの方を見てしまっているが、わたしはスクリーンに顔を向けたまま目だけを彼に向けて答える。
「そうだよ、見えるし、声も聞こえる」
「そうなんだ。ぼくはいつもは見えるだけだけど、時々触ってくるやつもいる」
「え、触られたことあるの?」
「お姉さんはないの?」
「うん、まだ一度もない」
「他にも同じ力を持ったお友達いるの?」
「ううん、君が初めて」
「そうなんだ。僕も初めて」
男の子はそこで一度顔をスクリーンに戻した。
その顔を横から盗み見ると、どこか嬉しそうな笑みを浮かべている。
きっとわたしも同じ顔をしていることだろう。
「なんだか嬉しいな。今までずっとわたし一人だけだと思ってたから。この力があるって言えば家族ですら変人扱いしてきたし」
独り言のようにわたしがそう言うと、男の子が体ごとこちらに向けてきた。
「あの、お姉さん」
「うん?」
また目だけ向けて返すと、男の子は少し震えた声で言う。
「お友達になってくれませんか?」
その瞬間、映画の中で大きな爆発が起きた。
映画を観ているふりをしてればって言ったのに。
まあ、シアタールームは暗いし、他に人もいないし大丈夫かな。
わたしも男の子に体を向けて微笑んだ。
「うん、もちろん。ずっと同じ力のお友達が欲しかったんだ」
「やった」
ニカッと歯を出し、目を細める男の子。
ようやくこの子の子どもらしい顔を見た気がする。
その後、映画を観るのも忘れて二人で互いの話をした。
幽霊が見えることで苦労したこととか、今までで一番怖かった幽霊の話とか。いろいろだ。
これまでわたしにも友達と呼べる存在はいた。
放課後に一緒に帰ったり、休日にはどこかへ遊びに行ったり。そういうことができる友達。
だがその友達とはこんな話なんてしたことがない。できるわけがない。
本当の自分を隠して付き合っていた友達だから。
わたしは今、本当の意味ですべてを打ち明けられる相手に出会えたような気がした。
相手は小学生くらいの男の子だけど。
気が付けば映画は終わっていた。
壮大なオーケストラ曲と共に流れているエンドロールも終わりがけのようだ。
上映が終わり照明が戻れば、研究所の人にこうして話していることがバレてしまうかもしれない。
「そろそろエンディングが終わる。お姉さんは明日もここに来るからさ、よければまた話そうよ」
「……うん」
男の子は想像以上に寂しそうな目をしていたので忍びない気持ちにもなるが、仕方がないことだ。
ここは、心を鬼にしなくては。明日もこの子と話すためにも。
ん? そういえばまだこの子の名前を知らなかった。
わたしはくるりと振り返り、男の子に微笑みかける。
「私は水原楓。一応社会人一年生です。君の名前は?」
「ぼ、僕は田々井悠馬(たたいゆうま)。小学六年生です」
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