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 小さい頃から、あまり自分のことを立派なもんだとは認識してなかった。俺よりも立派な兄達の存在が大きかったんだと思う。直接比べられることは無かったが、兄達の名前が刻まれた持久走やら水泳大会やらの賞状がリビングに飾られることはあっても、俺の読書感想文の賞状が飾られることは無かった。俺の賞状を飾るのが面倒臭くなったのか、それとも期待されてなかったのか。

 とにかくそういう、俺は大した存在では無いんだと突きつけられる出来事が積み重なって、俺は自分自体に期待するのは無駄だと思うようになった。


 カナタと初めて話したのは、そういう認識がすっかり出来上がっていた頃だ。学校の行事で訪れた林間学校で俺とカナタはハイキングで一緒の班になり、そしてどういう訳か俺とカナタだけ迷った。多分、カナタがぼーとしながら歩いて違う道に行って、不運にもカナタの後ろには俺しかいなくて、そのままつられるように付いて行ってしまったのだ。

 道はあるし看板もあるが、学校から持たせられた地図では現在位置が分からない。

 蝉の声が洗脳してくるみたいにうるさいし、同級生は態度が軽い。頭がどうにかなりそうだったが、カナタが笑ってるのに自分が泣くのはアホらしい気がして、そこまで最悪な気分では無かった。

「ここどこだろうね、まあ、看板の通りに行ってみればいいか!」

「そっちじゃない……!」

 ヘラヘラ笑っているカナタが看板に示された方角と逆方向に歩き出すから、俺は首根っこを掴んで止めた。グエッっ、と間抜けな声が上がる。襟が首に食い込んだんだろう。

「もし迷ったらその場から動いちゃ駄目って話だったろ……!」

「そうだけどさ、でもほら、見てみなよ」

 カナタが指さす先には木製の看板があって、ここら一帯の地図が描かれてあった。

「ここってちょっと予定のコースから外れてるだけで、ちゃんと歩けば多分皆と合流できそうじゃない?」

「……さっきちゃんと歩くのも出来てなかった」

「ははっ、俺方向音痴なんだよね」

 頭を抱える。なんで地図読めるのに方向音痴なんだよ。

「道案内してよ。俺付いてくから」

「……いや、俺は」

 出来ないと言おうとして、諦めた。俺がそう言ったらカナタが先導し始めそうな顔付きだった。もう、俺がやるしかない。

「もし迷っても文句言うなよ……?」

「大丈夫!戻ってこれるようにこれ置いていくから!」

 カナタがそう言って見せつけてきたのは、やけにツヤの良い団栗の山だった。まさかそれ探してて迷ったんじゃないだろうな。



「すげえよ!合流できたじゃん!」

「ほんとだ……」

 15分程歩いて坂を下ったところで、すぐ先に同級生が歩いてるのが見えた。カナタの方を見るとやけにキラキラした目で見返して来る。看板に示されていた通りに歩いてきただけなのにカナタが嘘みたいに褒めるから、俺はなんとなく達成感というやつを感じていた。

「これやるよ!お礼」

 渡されたのは、道に落とし続けて残り一個になってた団栗だ。

「……団栗馬鹿」

「え、もしかして怒ってる……?」

「いや……、ありがとう」

 手の平にコロンと転がされたそれは、多分、賞状を受け取るよりもずっと簡単に手に入る。

 だけどその時の俺にとっては、リビングに飾られた兄達のどの賞状よりもずっと貴重な物に思えた。


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