第47話 心の闇に挑む
三木谷に託した下村へのメッセージは、週末に返事が来たが、三木谷が直接、藤波に会って伝えに来た。
週末の午後に居酒屋にやって来た三木谷は、丁度三人が昼食を終えて寛いでいる時間だった。三木谷は特に真苗と短い受け答えをして、此処でなく近くの喫茶店に藤波を誘った。
可奈子の喫茶店は観光客が多い時間帯で人通りの少ない喫茶店を選んで入った。珈琲を注文すると三木谷は、真苗を小さい割にしっかりした受け答えをする女の子だと感心した。今日は珍しく真苗に関心を持って、いやな予感がした。
「あのメールに対する下村の返事ですが、電話でも良かったんですが所長が直接確かめろと言われました」
藤波のメールを受け取った三木谷と高嶋は、藤波があの事件に対してここまで踏み込んだ内容に疑問を抱き、先ずはそれを確かめに来た。
「あれを見たときの下村の状況は意外と動揺なく、淡々とあのメールを見ていたのが気になりました」
やはりそうか。
「それで下村さんの身に何か変わった事でも起きたのですか?」
「いや、別に、いつもと違ってませんが、なんかスッキリされた印象を受けました」
「そうですか。それであの文章を見て下村さんは
「早いうちに会って話がしたいと言ってました」
「それをわざわざ言いに来られたのですか」
三木谷の疑問はもっと複雑なはずだ。
「それだけならわざわざ来ませんよ」
三木谷の思う疑問は、下村は真苗を追い詰めながら、どうしてあの子だけ、あの事件現場の家から
残ったのは二階に居る真苗だけだ。特に真苗には個室が与えられている。真苗の部屋は洋室で二階に上がりきった所にドアがある。入り口のドアは一つで、窓から飛び降りるには、真苗はまだ小さく降りられない。深詠子から逃げるように言われて、異変に気付けば階段を降るしかない。その時には下村は、二階の階段を上っていた。八歳の子供が階段で鉢合わせすれば、とても逃げ場がないのに、犯行時どうして真苗だけ
「あのメールはどうして作成したか、聞かして欲しい」
「あれは、あくまでもわたしがテレビや新聞で知った範囲で想像したに過ぎない」
その点は、あの文章を見せながら三木谷さんも、その疑問を下村に云った。下村も本当に知らないのか、思い出せないの一点張りで、とにかく藤波さんに会って話したい。あの人を見れば妻が浮かんで来て、不思議とあの人に会って話せば記憶が
「どうします。会いに行きますか」
下村が向こうから言ってくれば当然会いに行く。
「勿論、そのために三木谷さんにあのメールを託したのですから、今、直ぐに会いたいですね」
「今日は週末ですから一般の方はもう面会できません。それで明日からの連休明けで、火曜にはうちの特権で面会枠を取っておきます」
これで三木谷は、下村が嘘を言ってはぐらかしてない自信を持った。矢張り藤波と謂う男には、妻の深詠子さんに繋がる何かを、下村は感じてる。下村は彼の目の前でなければ、あの事件に至った深層心理が浮かばないと確信した。
週明けで藤波は、いよいよ下村との面会いに警察に行く。軽トラは可奈子と真苗が中央卸売市場に使って、バスに乗って向かった。
休日と振り替え連休を挟んで三日後に、下村との面会を三木谷は取り付けた。此の日数は下村にもメッセージに対する十分な思考時間になった。
こちらもそうだ。真苗の言った父に対する考え「どっちでもいい」は家族全てを一瞬にして失い(父親は生きているが)、身の置き場のない真苗自身の諦めのようにも聞こえる。また新たな家族を求めているようにも見える。真苗との接触が多い、可奈子に云わすと後者の方だと言い切った。それには深詠子さんが、啓ちゃんを家族に紹介するために実家に連れて行き、そこでガラシャと「草枕」の場所を案内した。あの話で真苗ちゃんは、藤波と深詠子との共通点を探った。
そこは深詠子さんが、子供時分からよく行った場所だと、磨美さんに聞いた。真苗ちゃんも母のお葬式が終わって自宅で聞かされて、彼女なりに此の二つを調べた。ガラシャは母の生き方と重ね合わせている。「草枕」は啓ちゃんの自己中心的(人には優しいが)な生き方が、漱石の非人情と共通すると、深詠子さんは受け取ったようだ。実際、口数の少ない啓ちゃんを真苗ちゃんも同じだと受け取った気がする。果たして下村の場合はどうなんだ。下村は深詠子に対して持つ独占欲は、美しく尊い者を
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