第43話 下村と面会
可奈子は店に出たり出なかったりだ。それだけ暇な日もあると謂う事だ。真苗は開店から一時間、遅くても夜の七時には二階へ上がらせた。お陰で長老格の酒巻さんは五時の開店と同時にやって来て端の席に座り、真苗をその隣に座らせて話し込んでいる。知らない客は、おじいさんとお孫さんが来る店だと、気軽に此処で腹ごしらえをして、祇園花見小路に繰り出す。一見さんが多いときは可奈子も出てくれるが、常連客の時は余り顔を出さない。近所の人は立花の喫茶店で観光客が来るまで珈琲を飲んでいた連中だ。朝のすがすがしい雰囲気に慣れた
真苗は結構人気者だが夏休みが終わり、二学期が始まれば春休みまで出さない。何や九月までか寂しいなあ。一番に
最近の孫は何か用を言い付けてもゲームに夢中で
七時までは真苗に人情話や、おっちゃんたちの子供の頃の話などを「それから、どうなるのぉ? それからどうしたん?」と合いの手を入れるように、孫ぐらいの子にせっつかれると「よっしゃ、よっしゃ」と話が弾んで来る。お陰で藤波はカウンターの内側で丸椅子に座ってのんびり出来た。
真苗を見ると、子供は環境が悪くても、特に奇異な行動があっても、豊かな感情表現で接して、安定した情緒のもとで、おそらく深詠子は育てていたのだ。
夏休みの間は可奈子も、市場に真苗を連れて行って、仲買人達のやり取りを見せて、藤波は市場に毎日行かなくなった。常連客の好みに合わせて仕入れるが、矢張り市場で現物を見て回り、めぼしい物があれば手頃な値段で仕入れる。それで三日に一回ぐらは行って下村との面会も増えた。おそらく高嶋が下村との面会を控えて、藤波が申し込んだ日は面会が取れるようになった。ただ弁護士の高嶋が下村と面会するときは、警察官は立ち会えずに面接時間も自由になるが、今の処は雰囲気作りに徹して今日も面会に行った。最近は下村も待ちわびてるようだ。
この日もアクリル板を挟んで下村との対面は、以前に比べて落ち着き、彼が席に着くと単刀直入に話せた。先ずは担当の高嶋弁護士に藤波が会ったと知ると、下村の表情は良くなり、彼が高嶋を信頼しているのが解った。そこで思い切って訊ねた。
「高嶋さんとは内情を結構、話されたようですね」
「あの人は気さくな人で、よくもまあ俺みたいな犯罪者でも話を聞いてくれる」
「まあそれがあの人の仕事ですから。それでも高嶋さんは肝心なことは言ってくれないとぼくに言われましたよ」
「いや、そんなことはありません」
思い違いがあるのかなあ。
「下村さんの思い過ごしではないですか?」
「それはない、が、あの人でも、いざ妻に関する話になると何か喉に詰まってしまうんです」
矢張り深詠子に対しては、心の何処かで異質に思える何かがあるようだ。
「それに引き替え、藤波さんは何か同じ目線で見られて、最初に会ったときから不思議だったんですが、何となく気分が落ち着きます」
「そうですか。それでちょっとお伺いしますが、僕の事は妻以外では三沢磨美さんからも聞いてますか?」
磨美さんの名前を出すと愛嬌の一環なのか苦笑いされた。きっと肘鉄を食らわされた苦い思いが懐かしく浮かんだのだろう。深詠子と結婚してからは、それを帳消しにするほど磨美さんは下村家に良く出入りしている。
「深詠子と一緒になるまではバリケードみたいに、磨美さんにはえらく毛嫌いされました。それが結婚するとハメを外されて、藤波さんの事は妻より良く喋ってくれて、後で聞くと最近まで余り会ったことがないと高嶋さんから聞かされて吃驚しました」
「ぼくも話はよく聞かされたが、亡くなる前は一度ぐらいしか磨美さんには会ってないのに、僕の事を良く知っていて、下村さん同様に驚かされました」
そこで磨美さんから藤波を深詠子はどれほど愛していたか聞かされた。下村の根底には深詠子と磨美から聞かされて、どうやら藤波と謂う男の人格が形成され、影のように脳裏の奥深いところに蓄積された。しかも藤波のお陰で深詠子との幸福が成り立っている実感を常に噛み締めて、仕事が益々順調に続いた。益々拡大した事業が失敗すると妻に延々と
「それで、どうしてもその点について詳しく言ってもらえれば、遺された人たちも何処かで心穏やかに過ごせるでしょう」
もう直ぐお盆になる。快く彼女を見送りたい。
「高嶋さんの話だと、丹後の実家には美澄と孝史の遺骨を持って行き、深詠子はあなたのところにあるんですね」
「ええ、お兄さんも実家のご両親も納得されて、わたしの家で供養しています」
申し訳ないと下村は深々と頭を下げた。
下村にはそんな話より、存在した深詠子の過去に生きていた。これからも想い出を大事にしたいが、この手で
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