ニ話 城塞都市テミル

都市は活気に満ちていた。

青年は初めてみた酒場の活気や、市場での威勢のいい掛け声、羽振り良さげに馬車を駆る商人、鎧を着た馬上の騎士たちに顔を紅潮させた。

しかし青年が一番興奮したのは青年の前に一人の老人が通りかかったときだった。

その老人は白髪で黒のローブを着て、深々とエナンを被っている。

皺の刻まれた顔の間からは鋭い緑色の目が覗いている。

肩には黒猫を乗せ、灰色の老馬に跨がっている。

脇に連れた従者の顔は青白く光り、目は赤く血走っていた。

「魔術師様だ」誰かの声が聞こえた。

青年は心の声に従い、老人の元へ歩み寄った。

老人は青年を見ると「君は良い目をしている。龍の目のようだ。風にの匂いが漂ってくる。」と言い、にっこりと微笑んだ。

老人は青年の方を向くと袋の中から一つの石を取り出した。

「これを持っていきなさい。」と言うと、青年の手にしっかりと握らせた。

そして「またどこかで会おう」と言うと馬に乗ってまた街道を進み始めた。 

青年の手にある石は透き通った青をしていた。

青年が石を胸に抱くと、青年の胸は共鳴するように青く青く光った。

宿屋の主人は銭無しに優しかった。

青年に雑用をして自炊をすることを条件に一日の宿を貸してくれた。

旅は青年を一回り大きくしたようであった。

宿屋に隣接している酒屋ではいろいろな情報が手に入る。

奥のカウンターに座っているフードを被った男は西の国から来たようだ。

目は血走り、顔には大きな傷をつけている。

どうやら西の国では国王が代替わりしたようであった。

そのときの騒乱で未だに国がごたついているらしい。

周囲から人買いと呼ばれていた彼は、どさくさに紛れて商売をしてやろうと息巻いていた。

扉の前の席で酔いつぶれて騒いでいるのはここ、城塞都市テミルの衛兵たちである。

近頃は魔物との戦闘もなく平穏な空気が漂っているのでこのように飲んだくれてもお咎めなしだそうだ。

最近は大魔術師の来訪もあり、王都から臨時で褒賞が出た。

彼らはその金を今日で使いきるつもりだそうだ。

そんな喧騒を楽しむうちに雑用は終わり、そしてまた朝がきた。

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