第4話 おかしな屋台の店主のレイン


 その屋台だけが洋風にもかかわらず、不思議と周囲に溶け込んでいる風に感じられたのは、赤と白のストライプが提灯とお揃いになっているからだろうか。

 

「いらっしゃい。…………ああ、あんたかい。ヒヒヒヒッ」


 魔女のような口調と笑い方に顔を上げた案理の目に映ったのは、1/1スケールの等身大フィギュアが動いているかのような、たいそう可愛らしい女性だった。


 自称童顔ではない本物の童顔に、濃いめのメイクがばっちり決まっている。


(か……っわいい…………!! 全部のパーツが黄金比なんじゃないかしら? 芸能人だったら、なりたい顔ランキングの上位常連でもおかしくないくらい整っていて。文句のつけようのない美人さんね……!)

 

 案理は前評判通りの店主の容貌に感心しきりだった。


「やあ、レイン。この夏のお客さんの入りはどんな感じ?」


 見惚れる案理とは対照的に、ミコトは居酒屋の暖簾をくぐるかのような気安さで挨拶を返した。


「ヒヒヒ……! 今年は人間ヒトが多いみたいで、連日大盛況さね」


 小さな口元を綻ばせた店主には、一体、何が聴こえているというのだろう。


「だがね、お前さんの手が必要でなくなったってわけでもないんだ。ご縁を結んでも結んでも、ちいとも捌けそうにないのさ……。わしのこしらえた子どもたちヨーヨーは……」


(ご縁……? ヨーヨーって、そういうものだったっけ? ここの神社のお守りじゃあるまいし…………)


「…………ああ。去年はあんなことがあったからかな……」


 ミコトは声を落として呟いた。

 

(あんなこと?)

 

「向こうに行ったって、欲が消えるわけでも無念が晴れるわけでもなかろ。がわかってるんなら、そいつはまだ幸運なほうさね。……ヒヒヒッ」


「でも、その言葉が聞けて安心したよ。このお役目は、ぼくの趣味みたいなものだから、放り出されたら悲しいもの……」

 

 何について話しているのか見当もつかない案理は、相槌のひとつも打てずに、ふたりの顔を交互に見るばかり。


「ヒヒヒヒ……。そうかい、そうかい。……それで、今回あんたが連れてきたそっちの嬢ちゃんは、かい?」


「どうだろうね。でも、はありそうだろ?」


「ああ。誰にでも好かれそうな器量好し。美しさはだからねえ。ヒヒヒヒッ。今回もいいお客さんを連れてきてくれたみたいじゃあないか」


「礼を言われるほどのことじゃないんじゃないかなあ? でも、感謝されるのは気分がいいね」


「ああ、いけない! わしとしたことが、大事な大事なお客さんを置いてきぼりにしてしまっていたね。この老いぼれを許しておくれ?」


 店主の女性が頭を下げると、肩のところで切り揃えられた髪とヘッドドレスが揺れた。

 

(老いぼれなんかではないと思うのだけれど……。うちの学園にいてもおかしくないくらいよね? でも、最近の女性って、みなさんお若くてお美しいもの。私たちより何歳かは年上の方なのね、きっと)


 案理は、店主の着用しているジャンパースカートに視線を落としながら考える。


 遊園地が描かれているのだろう。隙間なく張り巡らされた柵の向こうには、観覧車やメリーゴーランドといった遊具が見えた。

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