第3話 それはサーカステントのような
「ここだよ。不思議なヨーヨーすくいの屋台が出てるのは」
『
「……あら? 今日だったのね。
日中も遠方から訪れる参拝客の多い愛逢神社だが、このあと近所で花火大会が行われることもあり、ふたりが到着する頃には、大勢の人の熱気が体感気温を上げていた。
「そうなんだ。人が多いから、ぼくとしっかり手を繋いでいてね」
「離す気なんて最初からないわ。ミコトこそ、私の手を離さないで頂戴ね」
案理はミコトの指示通り、腕をほどいて彼女の手を握った。
「でも、ここの縁日には前にも来たことがあったでしょう? そのときは、普通のヨーヨーすくいの屋台しかなかったと思うのだけど…………?」
「毎年、決まった場所に出店してるわけじゃないからね。全国各地どこでだって出会える可能性はある。逆に言えば…………」
「『今日を逃したら、一生出会えないかもしれない』ということかしら?」
「そう。きみ
すいすい人混みを縫って……というよりかは、誰もがミコトと案理のために道を空けてくれているようだった。
「ミコトはしないの? せっかくの機会でしょう?」
「ぼくはいいよ」
「前にしたことがあるから、今回は見送るというだけ?」
「あとで見てもらえばわかると思うけど、可愛らしすぎて、残念だけどぼくの好みじゃないんだ」
台詞のわりに、ミコトは少しも残念そうには見えなかった。
「…………というか、そもそもの話、ぼくには
「それって、どういう……?」
「ほら、前をご覧。着いたよ」
「これが、ミコトの言っていた…………」
ミコトの含みのある物言いを不思議に思っていたはずの案理だが、一瞬にして、華やかな屋台に心を奪われてしまった。
「どう? きみの想像と比べて」
問題の屋台は、少し変わり種の味から定番の味まで選り取り見取りなかき氷と、大ボリュームが売りのフランクフルトの屋台に挟まれていた。
噂通り、人目を引く派手な装飾が施されているはずなのに、ほとんどの人が視界に入っていないかのように通り過ぎていくことを除けば、目立った異常はない……としていいのだろうか。
「可愛い……! 小さいサーカスのテントみたいね?」
屋台といえば直方体のはずだが、その屋台は真ん中がつんと尖った五角形の構造をしており、案理の評した通り、小ぶりなサーカステントのようだった。
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