第9話・特殊作戦群
特殊作戦群という言葉に、さすがの透も困惑する。
「それって世に言う特戦ってヤツだよな……? 空挺徽章、レンジャー徽章持った選りすぐりを、さらに選りすぐった化け物の部隊だよね?」
「はい、そうですね」
「水陸機動団や、第一空挺と間違ってない?」
「いえ、特殊作戦群です。そこの群長が直々にお会いしたいと」
「えっ、じゃあ俺今から習志野まで行かなきゃなんない?」
「その必要はありません」
タブレットを取った四条は、ニッコリと可愛い笑顔を見せる。
「既にオスプレイが習志野を離陸してます、後30分もすれば……こちらにお見えになるでしょう」
「……マジ?」
「マジですが、何か?」
「……とりあえずシャワー浴びて着替えてくる」
「動揺しまくりじゃないですか」
呆れる四条を置いて、透は自衛隊員特有の凄まじいスピードでシャワーと着替えを終えた。
迷彩服で良いと言われたので、服は通常のもの。
その代わり、普段の100倍くらいビシッと着込んだ。
ブーツは部屋に出るGのごとく黒光りさせ、服には入念にアイロンを掛ける。
「アレ、隊長どっか出かけるんです?」
日課のトレーニングを終えた坂本が、部屋に入ってくる。
ベッドが2つ並んだここは、同じ特別配信チームである彼と共同で使っていた。
「いや、急に特殊作戦群が会いに来るとか四条に言われてさ……大急ぎで準備してんだよ」
「へー、特戦ですか……」
薄めたスポーツドリンクの蓋を開け、いざ飲み干さんとした坂本は……。
「ゴッフッ!!?」
「坂本!?」
盛大に吹き出し、モロに咳き込む。
「な、なんで特戦が隊長に会うんですか!?」
「知らねーよ俺が聞きてーよ! もう向こうは出発してて、あと少しで着くらしいし」
「マジっすか……、隊長。特戦がいかにヤバい部隊か知ってます?」
「……あまり具体的には」
呼吸を整え、今一度しっかり冷えたドリンクを飲んだ坂本が表情を強張らせる。
「アイツらは同じ自衛官じゃない、“本物の軍人”ですよ。日本において彼らほど殺しに特化した集団はいない」
「確か最近だと、アフガニスタンや南スーダンの邦人救出で出動したとは聞いたけど」
「当然でしょうね、だって特戦の隊員は個人で海外のPMC(民間警備会社)……つまり傭兵のところで研修してるらしいですし」
「個人の規模じゃねぇ……」
「後は、米軍と一緒に……表には出せないヤバい事案をやっているとも聞きます。間違いなく日本最強の部隊です」
そんな恐ろしい連中が、なぜ自分なんかを目当てにわざわざ来るのだろう。
答えは、坂本の口から出た。
「多分ですけど、現状このダンジョンを一番攻略したのは隊長じゃないですか。特戦は表立ってこっちに来てない以上、実戦のフィードバックが欲しいのかもしれません」
確かに、2ヶ月前の配信ではエリアボスと死闘を繰り広げた。
そのデータが欲しいと言うならば、まぁ納得である。
「なんか心配ですし、僕も同行しますよ。多分四条2曹もそのつもりかと」
「四条が? アイツは今日撮った配信の編集で忙しいだろ。そもそも俺の心配とかしないって」
「……知らないんですか? あの人、隊長にしかあんな柔らかい態度見せないんですよ」
「えっ、なんで?」
「詳しくはわかりませんけど、前に見たのは廊下で他の男性佐官から食事に誘われても、冷たくあしらってました。さすが陸将の令嬢……“氷の白雪姫”と呼ばれるだけあります」
「そんな名前付いてんのかよ……、全然知らずに話してたわ」
そうこうしている内に、約束の時間がやってきた。
坂本の言う通り、団本部前には本当に四条の姿があった。
マジで編集よりこっち優先なんだな……と思う。
そして、遂に彼らは現れた––––
「来たか……」
LAVの車列が近づき、3人の前で止まる。
しばらくして中から現れたのは、筋骨隆々の陸上自衛官たち。
見たことの無い装備をしており、銃も通常のそれとはカスタムが掛け離れていた。
体格も一目見て、鍛え方が違うとわかる。
透たちは様式通り、ビッと敬礼した。
最初に出てきた男が、笑顔を向ける。
「特殊作戦群長の城崎(きのさき)だ、会いたかったよ––––新海透3尉」
出て来たのは、群長を含めて9人の男性と、
「…………っ」
小柄で長く茶色い髪を持った、まだかなり若い女性が1人だった。
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