第8話・突然の報告

 

「新海3尉、ただいま戻りました」


 ––––ダンジョン第1エリア、【陸上自衛隊ユグドラシル駐屯地】。


 時間は巻き戻って現在、四条に頼まれていた配信を終えた透が駐屯地へ帰還した。

 ここは、彼が最初に攻略したローマ風都市から少し離れた場所を、自衛隊が丸ごと駐屯地にしてしまった場所だ。


 あれから2ヶ月経ったが、もうこのエリアにモンスターが湧くことはない。


 今では重装甲車や戦車、対戦車ヘリコプター等が持ち込まれた、ダンジョン内部最大の駐屯地となっている。


 大型のミリ波レーダーや、移動式レーダー。

 ヘリポートや迫撃砲陣地を備えた、重武装の要塞だ。

 門をくぐり、警衛の前に立つ。


「じゃ、俺はここで別れるから。後はそこの警務隊の人に従ってダンジョンから出るようにね」


 透は助け出したハンターを送り、別れようと踵を返す。


「あっ、あの……!」


 女性ハンターの声に振り向くと、彼女は崩れそうな顔で声を絞った。


「ありがとう……ございました! あなたが、自衛隊が来てくれなかったら本当に死んでいました」


「義務を全うしただけだ、命が無事で良かった」


 別室へ連れて行かれるハンター。

 装甲車を駐車場へ移し終わった頃、1人の自衛官が話しかけてくる。


「お疲れ様です隊長、なんか対戦ヘリが出動して行きましたけど……何かあったんです?」


 迷彩ズボンにモスグリーンのシャツを着た坂本3曹が、いかにもランニング終わりと言った様子で近づく。


「何もどうも、民間のハンターが殺されかけてたから助けただけだ。近くにいたのが幸運だった」


「へぇ〜、僕はさっきまでランニングしてたから配信見れなかったんですよ。そうそう、四条2曹がウズウズしてましたよ」


「四条が? なんで?」


「通りすがりに聞いたんですが、なんか隊長に用事があるみたいです」


「こっちはやっとおつかい配信を終わらせたのに……、相変わらず顔は良いけど人使いが荒いのな」


「まぁ悪い話じゃなさそうでしたよ? 今から戦闘団本部にでも行けば良いかと」


「だな、行ってくるよ」


 重い装備を持って、透は歩き出す。


「そうだ坂本」


「はい、なんでしょう?」


「こないだドローン偵察で見つけた新エリア、近々大規模な戦力で攻略するらしいぞ」


「へぇー、やっとですか。このエリアを攻略してから政府の判断待ちでずっと守勢でしたからね。やっとかって感じです」


「おう、だから64式ちゃんと整備しとけよ。アレすぐ部品脱落起こすし」


「四条2曹の黒ビニテをこっそりパクったんで、それ巻けば余裕っす」


 さりげなく恐ろしいことを言う坂本に背を向け、透は戦闘団本部へ向かう。


 ここが攻略され、拠点として活用すると決まってからの動きは迅速だった。

 長期作戦を見越しての基地設営、戦車やヘリコプターを分解しての搬入。


 目的である制御室占拠はまだだが、この近くに出現するモンスターもキチンと名簿付けした。


 今では普通科歩兵1200人。

 戦車16両。

 装甲車が250両。

 迫撃砲、自走砲80門。

 攻撃ヘリコプターが4機という陣容になっていた。


 噂では、今度のエリアを攻略して滑走路を造るなんて話もある。


 いずれにせよ、このダンジョンが日本という国へ与える影響は計り知れない。

 変な見栄で再生可能エネルギーに固執するドイツを差し置き、日本は既に大きく経済力で突き放す予定だった。


「入ります」


 装備を戻してから、透は戦闘団本部の会議室へ足を運んだ。

 ソファーに座ってタブレットを睨んでいたのは、横顔が凛々しい四条エリカ2曹だった。


 彼女は透の入室に気付くと、タブレット端末を置く。


「頼まれてた配信と、結晶の採取はしてきたぞ」


「ありがとうございます、ずっと配信は見ていましたが……さすがの判断力ですね。民間人の救出––––お見事でした」


「お前、そんな褒めるタイプだったっけ?」


「実力主義なだけです。決して貴方の戦い方や信条が好きだからとか、そ、……そういう訳ではないので」


「まっ、どっちでも良いけど。それで? 用がありそうって聞いたんだけど?」


 対面に座った透へ、四条は1度咳払いしてから姿勢を正す。


「新海3尉、あなたは今や国民的英雄です。ボス撃破の実績は上層部でも高く評価されてるようです」


「そうらしいね、で––––本題は?」


 柔らかく聞いた透に、四条は固い口調で声を出した。


「先の作戦を見ていた部隊の1つ、“特殊作戦群”が貴方に会いたがっています」


 特殊作戦群。

 それは、一言で言うなら––––日本最強の極秘特殊部隊だった。

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