第7話・溢れ出す資源
––––長野県のある山奥。
自然が美しい日本でも数少ない内陸県であるここは、山脈が多いことで知られる。
そんな山中。
もはや誰も使わない……。
強いて言うなら、違法廃材置き場になっている土地に異変が起きた。
「なんだよ……、これ……っ」
今日も警察に怯えながら違法廃棄物を捨てに来た人間は、いつも通りに廃材を放り込もうとして絶句する。
「泥……じゃないよな? は? えっ?」
何度も目を疑う。
普段であれば切り開かれた土と廃棄物だけの場所に、大量の“黒い液体”が溢れ出していたのだ。
しかも、どういうことかこれまで溜まっていた廃棄物も見当たらない。
ゴミ捨て場が、真っ黒な湖になっていたのだ。
突然の現象に気味が悪くなった彼は、大慌てでトラックに乗り込み、その場から逃げ出した。
次いで、警察に通報。
今までの悪行の証拠が隠滅されたことも合わさり、安堵感を得るための行動だった。
「えー、こちら現場に着きました。通報者の言う通り黒い水で覆い尽くされています」
到着した長野県警は、すぐさま成分を知るためにチームの派遣を要請。
余談であるが、この際––––通報した違法投棄者は監視カメラに映ったトラックの荷台がバレたため、あえなくお縄となった。
そして、専門機関の有識者が水の成分を分析して……文字通りひっくり返る。
この情報は、すぐさまネットニュースに流れた。
【速報、長野県、山梨県、熊本県、群馬県の山中から大量の石油が溢れ出す。推定埋蔵量は日本の年間使用量の200年分以上に相当か】
石油資源に乏しい日本にとって、これは到底あり得ない出来事だった。
あまりに衝撃的なニュースに、日本国民はデマすら疑ったほどだ。
これまで中東から高値で買っていた石油資源が、国内で溢れたのだから当然だろう。
各企業は緊急で土地の確保を行い、国が全面的に支援する形で精製設備を作ることとなった。
これにより、日本は一瞬で資源後進国から一転––––資源輸出国へと生まれ変わる。
イランとの関係性を維持するために今後も取り引きはするが、当然輸入量は大幅に減る。
それどころかヨーロッパ、インドにまで輸出する目処が立ってしまった。
それと同じく、この奇跡とも言える現象に––––ある仮説が唱えられた。
【これって、新海3尉がダンジョンを攻略したタイミングと完璧に一致しないか?】
一度吹き上がったウワサは、瞬く間にネットを通じて広がっていく。
通常ならあり得ない事態に、同じくあり得ない存在であるダンジョンと因果関係が無いなど断言できない。
結果として、この石油出現はダンジョン攻略がもたらした福音であると誰もが確信した。
そうなると、必然的にこの結果を生み出した者に注目が行く。
【日本に多大な恩恵をくれた新海3尉は英雄だ!】
【政府は引き続きダンジョンの攻略を! 決して他国に先を越されるな!】
インターネット上で、透たちは一躍有名人となった。
ちなみに、この石油資源を巡っては中国がすぐさま安値での爆買いを要求したが、日本政府はやんわりと拒否。
これは、ダンジョン出現時に中国の取った自己中心的な態度が原因であった。
まさに、自業自得である。
さらに日経平均株価は5万8千円台まで上昇。
日本のGDPは、一気に予想を上回る上方修正が掛けられた。
これは、バブル期を大幅に上回る––––日本経済復活の始まりだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます