気功療法師:天宮玲奈さん
◆初心者の息吹
目覚めたのは、夜明け前の静寂に包まれた午前4時半だった。私、天宮玲奈は、今日から念願の気功療法師としての第一歩を踏み出す。興奮と不安が入り混じった気持ちで、ゆっくりと目を開けた。
深呼吸を繰り返し、心を落ち着かせる。22歳。まだ若輩者の私に、人々の心身を癒すことができるのだろうか。そんな不安が頭をよぎる。
「大丈夫。私なりにできることがあるはず」
自分に言い聞かせるように呟いた。
起き上がり、窓を開ける。朝もやの中に浮かぶ街並みを眺めながら、軽いストレッチを始める。体を動かすうちに、少しずつ気持ちが落ち着いてくるのを感じた。
朝の身支度は丁寧に。髪は清潔感のある黒髪ショートを、さっぱりとまとめる。メイクは自然な印象を心がけ、薄いベージュのファンデーションと、ほんのりピンクのリップクリームだけにした。服装は、白のゆったりとした麻のシャツに、ベージュのワイドパンツ。動きやすさと清楚さを兼ね備えた着こなしだ。
朝食は、玄米と味噌汁、小さな焼き魚。体に優しい和食で、一日のエネルギーを蓄える。
玄関に向かう途中、祖母から譲り受けた古い鏡の前で足を止めた。
「よし、行ってきます」
鏡に映る自分に微笑みかけ、深呼吸をする。
療養所に到着すると、先輩の月見里 澪さんが優しく出迎えてくれた。
「おはよう、天宮さん。初日、緊張してる?」
「はい、少し……でも、頑張ります!」
「その意気よ。さあ、まずは朝の瞑想(*1)から始めましょう」
静かな瞑想室に案内され、澪さんの指示に従って座禅を組む。
「呼吸に集中して。心を落ち着かせるのよ」
目を閉じ、ゆっくりと呼吸を整える。しかし、なかなか心が落ち着かない。
「大丈夫。慣れるまで時間がかかるわ。焦らないで」
澪さんの優しい声に、少し安心する。
瞑想の後、早速実践に移る。今日の初めての患者さんは、肩こりに悩む30代の女性だった。
「では、気の流れ(*2)を感じてみましょう」
澪さんの指導のもと、おそるおそる患者さんの肩に手を置く。
「そう、ゆっくりと。力を抜いて……」
最初は何も感じられなかったが、しばらくすると患者さんの体から微かな温もりが伝わってくるような気がした。
「あら、少し楽になったわ」
患者さんの言葉に、思わず顔がほころぶ。
昼食時、同僚の風間 翔太さんが話しかけてきた。
「天宮さん、どう? 慣れた?」
「はい、少しずつですが……」
「そっか。気功って、最初は何が何だか分からないよね。俺も最初は戸惑ったよ」
その言葉に少し安心する。みんな同じように悩みながら成長してきたのだ。
午後のセッションは、クロニックペイン(*3)に悩む高齢の男性患者だった。
「天宮さん、ここでは気のめぐり(*4)が滞っているわ。感じ取れる?」
澪さんの指摘に、必死で集中する。しかし、なかなか感じ取れない。
「う~ん、すみません。まだよく分かりません」
「焦らないで。感覚を掴むには時間がかかるわ」
優しく諭されるが、自分の未熟さに落ち込む。
その夜、帰宅後の風呂の中で、今日一日を振り返る。喜びも挫折も、すべてが新鮮だった。湯船に浸かりながら、ふと泣きたくなる。
「私に本当にできるのかな……」
不安と期待が入り混じる複雑な気持ちを抱えながら、眠りについた。
◆揺らぐ心、試される信念
目覚めたのは、いつもの目覚まし時計ではなく、激しい頭痛だった。天宮玲奈、27歳。気功療法師として5年目を迎えたはずの今朝は、思いがけない体調不良に見舞われていた。
「ああ、どうしよう……」
時計を見ると、すでに始業時間を30分過ぎている。慌てて起き上がろうとするが、めまいがして体が思うように動かない。
何とか携帯電話に手を伸ばし、上司の月見里 澪さんに連絡を入れる。
「申し訳ありません。体調を崩してしまって……」
「えっ? 天宮さん、今日は大切な患者さんの予約が入ってるのよ!」
普段は穏やかな澪さんの声が、珍しく厳しい調子で響く。
「すみません。なるべく早く向かいます」
電話を切り、なんとか身支度を整える。いつもなら丁寧に施すスキンケアも最小限に留め、メイクは目の下のクマを隠す程度。髪はポニーテールにまとめ、服装も手近にあった白のワンピースを羽織るだけ。
タクシーを拾い、療養所に向かう車中でも、頭痛は一向に収まらない。
「こんな状態で、患者さんを診られるのだろうか……」
不安が募る。
療養所に到着すると、澪さんが厳しい表情で待っていた。
「天宮さん、こんな大切な日に遅刻するなんて。あなたの責任感はどこに行ったの?」
「本当に申し訳ありません」
深々と頭を下げる。
「今日の患者さんは、政界の重鎮なのよ。この方の evaluation(*5)次第で、私たちの療養所の未来が変わるかもしれないの」
その言葉に、さらに重圧を感じる。
「分かりました。全力を尽くします」
そう答えたものの、まだ頭痛が続いている。それでも、何とか気力で持ちこたえる。
更衣室で制服に着替え、深呼吸を繰り返す。鏡に映る自分は、明らかに普段より疲れた表情をしている。
「大丈夫。私なら、できる」
自分に言い聞かせるように呟く。
診療室に向かう途中、同僚の風間翔太さんとすれ違う。
「おい、天宮。大丈夫か? 顔色悪いぞ」
「ええ、ちょっと……でも、なんとかします」
翔太さんは心配そうな顔をしたが、それ以上は何も言わなかった。
診療室に入ると、すでに患者さんが待っていた。背広姿の60代の男性だ。
「お待たせしてしまい、申し訳ございません」
深々と頭を下げる。
「いや、構わんよ。それで、君が噂の天宮さんかね?」
患者さんの声には、少し skeptical な tone が感じられた。
「はい。本日担当させていただきます」
緊張と頭痛で、手が少し震える。気功を始める前の瞑想で、何とか心を落ち着かせようとする。
「まずは、お体の状態を拝見させていただきます」
患者さんの気の流れを読み取ろうとするが、頭痛のせいか、普段なら感じ取れるはずの 微細なエネルギー(*6)が掴めない。
「どうした? 何か問題でも?」
患者さんの声に、焦りが募る。
「いえ、失礼いたしました」
何とか気の流れを感じ取ろうとするが、うまくいかない。汗が滲み出てくる。
そのとき、ふと5年前の初日を思い出した。あの時も何も分からなかった。でも、真摯に向き合えば、必ず何かが伝わるはず――。
深呼吸をし、もう一度患者さんに向き合う。
「失礼いたします」
今度は力まず、ただ素直に患者さんの体に触れる。すると、不思議なことに、少しずつだが気の流れが感じられてきた。
「ここに少し滞りがありますね。肩や首のコリはよくおありですか?」
「ほう、よく分かったね。実はずっと悩まされているんだ」
患者さんの表情が、少し和らぐ。
そこから、丁寧に気功療法(*7)を施していく。頭痛は相変わらずだったが、患者さんの体から伝わってくる反応に集中することで、少しずつ自分の体調も忘れていった。
療法が終わると、患者さんは満足そうな表情を浮かべていた。
「なかなかだったよ、天宮さん。最初は心配したが、君の真摯な姿勢が伝わってきた」
その言葉に、安堵の息をつく。
患者さんを見送った後、澪さんが診療室に入ってきた。
「天宮さん、よくがんばったわ。患者さんから高評価をいただいたわよ」
ほっとする一方で、朝の自分の不甲斐なさを思い出し、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「澪さん、本当に申し訳ありませんでした。今後はもっと自己管理に気をつけます」
澪さんは優しく微笑んだ。
「分かってるわ。でも、体調管理も気功療法師の大切な仕事よ。自分の気(*8)を整えられなければ、人は癒せないわ」
その言葉に、はっとする。
その夜、帰宅後の風呂に浸かりながら、今日一日を振り返る。頭痛はようやく和らいできたが、心の中では様々な思いが渦巻いていた。
自分の未熟さ、責任の重さ、そして患者さんとの深い繋がり。気功療法師としての5年間で学んだことが、今日一日に凝縮されていたような気がした。
「まだまだ道は長いけど、一歩ずつ前に進もう」
そう心に誓いながら、明日への英気を養った。
◆円熟の波動
目覚めたのは、窓から差し込む柔らかな朝日だった。天宮玲奈、32歳。気功療法師として10年の歳月が、私に確かな自信と深い洞察力を与えていた。
ゆっくりと起き上がり、深呼吸を繰り返す。体内を流れる気の流れを感じながら、一日の準備を始める。
朝の routine は、年々洗練されてきた。まず、15分間の瞑想(*9)から。静かに座り、呼吸に意識を向ける。次に、太極拳(*10)の型を30分。しなやかな動きで体を目覚めさせていく。
身支度は丁寧に、しかし無駄なく。髪は肩につくくらいの長さに伸ばし、ナチュラルなウェーブを活かしたスタイルに。メイクは最小限だが、目元にはさりげなく光沢のあるアイシャドウをのせる。服装は、薄いグリーンの麻のワンピースに、白の羽織を合わせた。
朝食は、自家製の甘酒と玄米おにぎり。体に優しい発酵食品を中心に、栄養バランスを考えた食事を心がけている。
「いってきます」
鏡に向かって微笑みかけ、療養所へと向かう。
療養所に到着すると、後輩の月城 凪さんが駆け寄ってきた。
「天宮先輩、おはようございます! 今日は大切な患者さんがいらっしゃるんですよね」
「ええ、そうなのよ。凪さんも一緒に担当してくれるかしら?」
「え? 私でも大丈夫ですか?」
「もちろん。あなたの感性は素晴らしいわ。きっと患者さんにも良い影響を与えられるはず」
凪さんの目が輝く。後輩の成長を見守ることも、私の大切な役目だ。
診療室に向かう途中、院長の月見里 澪さんと出会う。
「おはよう、玲奈さん。今日の重要患者、よろしくお願いね」
「はい、心得ています」
かつての上司が、今では同僚として接してくれる。10年の月日を感じる。
診療室に入ると、すでに患者さんが待っていた。有名企業の CEO だ。
「はじめまして、天宮と申します。本日はよろしくお願いいたします」
患者さんの目を見つめながら、優しく語りかける。
「噂には聞いていましたが、本当に素晴らしいオーラ(*11)をお持ちですね」
患者さんの言葉に、わずかに頬が熱くなる。
「ありがとうございます。それでは、まずはリラックスしていただけますか」
ゆっくりと手を患者さんの肩に置く。すると、すぐに気の流れが感じ取れた。
「ここ最近、ストレスが溜まっていらっしゃるようですね」
「さすが。最近の経営判断で、眠れない日々が続いているんです」
患者さんの気の流れを読み取りながら、適切な therapy(*12)を選択していく。時にはハンドヒーリング(*13)を、時には遠隔気功(*14)を用いる。
横で見学している凪さんに、時折説明を加えながら進めていく。
「凪さん、ここで気の流れが変わったのが分かる?」
「はい! なんだか、明るくなった感じがします」
患者さんも、次第にリラックスしていく様子が伝わってくる。
therapy が終わると、患者さんは晴れやかな表情を浮かべていた。
「驚きました。心が軽くなった気がします。これなら、明日からの会議も乗り越えられそうです」
その言葉に、心から喜びを感じる。
「ありがとうございます。でも、これはスタート地点に過ぎません。日々の生活の中で、ご自身の気を整えていくことが大切です」
患者さんに、簡単なセルフケア(*15)の方法をアドバイスする。
患者さんを見送った後、凪さんが興奮した様子で話しかけてきた。
「先輩、すごいです! あんなに気持ちを落ち着かせられるなんて」
「ありがとう。でも、これは10年かけて培ってきたものよ。あなたにも、きっとできるわ」
昼食時、同僚の風間 翔太さんと談笑する。
「なあ、玲奈。そろそろ結婚とかどうなんだ?」
「もう、翔太さんったら。私には気功という伴侶がいるわ」
冗談めかして答えるが、心の中では少し複雑な思いがよぎる。キャリアと私生活のバランス、これは永遠の課題かもしれない。
午後は、若手セラピストたちのトレーニングセッション(*16)を担当。気功の基本から、患者さんとのコミュニケーション方法まで、幅広くアドバイスする。
「皆さん、覚えておいてください。私たちの仕事は、単に症状を治すことじゃないの。患者さんの人生に寄り添い、共に成長していくこと。それが気功療法師の真髄よ」
若手たちの目が、真剣な眼差しで輝いている。
夕方、最後の患者さんを見送った後、静かに診療室を片付ける。窓の外では、夕日が美しく輝いていた。
ふと、10年前の自分を思い出す。不安と期待に胸を膨らませていた新人の頃。そして5年前、挫折を味わいながらも前に進もうとしていた日々。
「本当に長い道のりだったわ」
しみじみと呟く。でも、この道を選んで本当に良かったと心から思う。
帰り道、ふと空を見上げる。夕焼け空に、一羽の鳥が悠々と羽ばたいていく。
「私も、もっと高みを目指そう」
そう心に誓いながら、明日への希望を胸に家路についた。
(了)
注釈:
(*1) 瞑想:心を落ち着かせ、集中力を高める精神的な実践。
(*2) 気の流れ:東洋医学で重視される生命エネルギーの循環。
(*3) 慢性的な痛み。長期間続く痛みのこと。
(*4) 気のめぐり:体内での気の循環のこと。
(*5) ここでは治療の効果や療養所の評価を指す。
(*6) 微細なエネルギー。気功で感じ取る繊細な生命力。
(*7) 気功療法:気の概念を用いた東洋の伝統的な治療法。
(*8) 気:東洋思想における生命エネルギー。
(*9) 瞑想:心を静め、集中力を高める精神的実践。
(*10) 太極拳:中国の伝統的な武術から発展した健康法。
(*11) オーラ:人体から放出されるとされるエネルギー場。
(*12) セラピー:治療。ここでは気功による施術を指す。
(*13) ハンドヒーリング:手をかざして行う癒しの技法。
(*14) 遠隔気功:離れた場所から気を送る技法。
(*15) セルフケア:自己ケア。自分で行う健康管理や癒しの実践。
(*16) トレーニングセッション:研修。技術や知識を伝える場。
◆新たな波動の創造
目覚めたのは、いつもより少し早い午前4時だった。天宮玲奈、42歳。気功療法師として20年の歳月が流れ、今や業界の重鎮として知られる存在となっていた。しかし、この朝は何か重いものが胸に乗っているような、落ち着かない気分だった。
ゆっくりと起き上がり、窓を開ける。まだ暗い外の世界を眺めながら、深呼吸を繰り返す。
「20年……長かったような、短かったような」
呟きながら、これまでの道のりを振り返る。喜びも、苦しみも、すべてが今の自分を作り上げてきた。しかし、ここ最近、ある思いが心の奥底でうずいていた。
朝のルーティーンを丁寧にこなす。1時間の瞑想、45分の太極拳、そして軽い朝食。シャワーを浴びながら、今日の重要なミーティングのことを考える。
髪は、年齢を重ねるごとに増えた白髪を、あえて染めずに活かしたナチュラルグレイのロングヘア。メイクは最小限に留めるが、目元には少し光沢のあるアイシャドウを。服装は、深い青のワンピースに、白の羽織を合わせる。
「よし、行こう」
鏡に映る自分に微笑みかけ、玄関を出る。
療養所に到着すると、後輩たちが次々と挨拶をしてくる。
「おはようございます、天宮先生!」
「天宮さん、今日の大切な ミーティング、がんばってください!」
優しく頷きながら、診療室に向かう。今日は午前中だけ通常の診療をこなし、午後からは特別なミーティングに参加する予定だ。
最後の患者さんを見送った後、ふと窓の外を見る。晴れわたる青空の下、人々が行き交う姿が見えた。
「みんな、幸せそうに見えるけど……」
そう呟きながら、ここ最近感じている違和感が再び胸をよぎる。気功療法は、確かに多くの人々を救ってきた。しかし、まだまだ世間では「スピリチュアルでいかがわしいもの」という認識が根強い。
「このままでいいのかしら」
そんな思いを抱えながら、ミーティング 会場へと向かう。
会場に到着すると、すでに何人かの参加者が集まっていた。各界のトップで活躍する女性たちだ。
「あら、玲奈さん。お久しぶり」
声をかけてきたのは、大手IT企業の CEO、鷹宮 薫子だった。
「薫子さん、お元気でしたか?」
「ええ、相変わらずよ。でも、この間あなたのセラピーを受けて、本当に助かったわ」
その言葉に、少し心が温かくなる。
定刻になり、ミーティングが始まった。司会は、女性活躍推進に力を入れている政治家の風間 美咲だ。
「皆様、本日はお忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます。今回のテーマは『女性の視点から見た、これからの健康観』です」
一人ずつ、自己紹介と簡単な意見表明が行われる。医療、教育、ビジネス、芸術など、様々な分野の第一人者たちだ。
そして、私の番が来た。
「気功療法師の天宮玲奈です。20年間、この道を歩んでまいりました。多くの方々の心身の癒しに関わってきましたが、同時に、ある課題も感じています」
一瞬、場の空気が引き締まる。
「それは何でしょうか、天宮さん?」私の発言に興味を持った美咲が尋ねる。
深呼吸をし、言葉を選びながら話し始める。
「気功療法は、多くの方々の人生を変える力を持っています。しかし、まだまだ世間では『スピリチュアルでいかがわしいもの』という認識が根強い。この20年間、その壁を少しずつ壊してきたつもりです。でも……まだ足りない。もっと多くの人々に、気功の本当の価値を知ってもらいたいのです」
会場が静まり返る。そして、メディア業界で活躍する月城 理沙が口を開いた。
「確かに、私たちメディアも、気功を含む代替医療について、まだ十分に理解し切れていないかもしれません。どうすれば、より正確で魅力的に伝えられるでしょうか?」
その質問に、思わず身を乗り出す。
「それこそが、今日皆さんと話し合いたかったことなんです。気功をもっと世に知らしめるには、どうすればいいのか……」
するとMBA講師の七瀬雛子が意見を述べ始めた。
「科学的な裏付けを強化するのはどうでしょうか?」
薫子がそれに答える。
「そうね。私たちの会社でも、ウェアラブルデバイスを使った気のフローの可視化研究を始めているわ。こういったテクノロジーとの融合も一つの道かもしれないわね」
はい、このシーンをより詳細に、具体例を交えて描写いたします。
会議室の空気が、急に活気づいた。様々な分野のエキスパートたちが、次々と斬新なアイデアを投げかけていく。
まず、教育界で名高い椿原 若菜氏が立ち上がった。
「小学校のカリキュラムに、東洋医学の基礎を導入してはどうでしょうか。例えば、3年生の保健の授業で『気』の概念を教える。簡単な呼吸法や、ツボの位置を学ぶんです」
若菜氏は、黒板に簡単な人体図を描きながら続ける。
「6年生になったら、漢方の基本や、気功の歴史を学ぶ。修学旅行で気功の聖地を訪れるのも良いかもしれません。子供のうちから東洋医学に親しむことで、大人になってからの抵抗感が減るはずです」
その提案に、参加者たちが頷きながらメモを取る。
次に、現代アートの旗手として知られる月城 麗子氏が発言した。
「私は、『気』をテーマにした大規模なアート展を企画したいと思います。例えば、気の流れを可視化した巨大なインスタレーション。来場者が実際に中を歩くと、自分の気の状態に応じて色が変化するんです」
麗子氏は、スマートフォンで素早くスケッチを描き、みんなに見せる。
「他にも、気功を行う人々の姿を捉えた写真展や、気功をモチーフにした彫刻なども。最後に、来場者全員で行う大規模な気功パフォーマンスで締めくくります。芸術の力で、気功の魅力を視覚的に伝えられるはずです」
参加者たちの目が輝き、興奮した様子でディスカッションが始まる。
そして、統合医療の第一人者である高尾 美奈子医師が、静かに、しかし力強く語り始めた。
「西洋医学と東洋医学の協調は、今後の医療に不可欠です。例えば、がん治療において、化学療法と気功療法を併用することで、患者さんのQOLを大きく向上させた例があります」
美奈子医師は、タブレットで具体的なデータを示しながら続ける。
「また、慢性疾患の管理においても、西洋薬と気功の組み合わせが効果的です。高血圧の患者さんが、薬の服用と並行して定期的に気功を行うことで、薬の量を減らせたケースもあります」
美奈子医師は、さらに踏み込む。
「私は、医学部のカリキュラムに気功を含む東洋医学の授業を必修化すべきだと考えています。西洋と東洋、双方の知識を持つ医師が増えれば、よりホリスティックな医療が可能になるはずです」
その言葉に、会場全体が深く頷いた。
天宮玲奈は、この活発な議論を聞きながら、胸が熱くなるのを感じていた。教育、芸術、医療。それぞれの分野のプロフェッショナルたちが、真剣に気功の可能性を探っている。この20年間の苦労が、こんな形で実を結ぼうとしているのだ。
「皆さん……」玲奈の声が少し震える。「こんなにも多くの可能性があったなんて。一人では、思いつきもしませんでした」
そう言って深く頭を下げる玲奈に、参加者全員が温かい拍手を送った。この日を境に、気功の新たな時代が幕を開けようとしていた。
感極まる私に、美咲が優しく微笑みかける。
「玲奈さん、あなたの20年間の努力が、私たちにこの場を与えてくれたのよ。これからは、みんなで力を合わせて、新しい健康観を作り上げていきましょう」
その言葉に、胸が熱くなる。
ミーティングが終わり、外に出ると、夕暮れ時だった。空には、美しいオレンジ色が広がっている。
「20年かけて、ようやくスタートラインに立てた気がする」
そう呟きながら、新たな決意を胸に歩き始めた。これからの10年、20年。気功の素晴らしさを、もっと多くの人々に伝えていく。そして、東洋と西洋、古来の知恵と最新のテクノロジー、それらを融合させた新たな健康観を作り上げていく。
家路につきながら、ふと空を見上げる。たくさんの星が、静かに輝き始めていた。
「みんな、それぞれの場所で輝いている。私も、私なりの輝き方で、世界を照らしていこう」
そう心に誓い、明日への希望を胸に、歩みを進めた。20年の歳月を経て、新たな挑戦が始まろうとしていた。
(了)
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