第十三話 そしてパパになる
俺はこれも無視してずかずかと部屋を後にする。赤ん坊は俺に抱かれても変わらず大きな声で泣いている。俺は玄関まで戻ってくると、自分の鞄から札束を出し、綺麗に並べていく。初老の男とガタイのでかい男が玄関まで追いかけてきた。
「もらった500万だ。置いてくぞ」
「気が変わったのか。」
初老の男が俺をどこか
俺は鞄をとり、いっこうに泣き止まない赤ん坊を背中に背負うと、玄関の扉の前まで行く。そして、男に背を向けた状態で口を開いた。
「...俺はあいつに生き返ってほしい!」
赤ん坊の泣き声に負けないように頑張って声を張る。
「この赤ん坊のことも、あいつのことも!聞きたいことがたくさんある!」
あまりに泣きすぎて疲れたのか、俺が突然声を張り上げ喋り出したから驚いたのか、赤ん坊の泣き声がやむ。俺は赤ん坊をゆするように軽く体を上下に動かす。
「あんたに預けた方がこの子は立派に育つのかもしれない。俺なんかよりあんたの方がいい環境で、この子を育ててくれるのかもしれない。けどな、、」
俺は振り向いた。サヤの父親が試すような顔で俺を見ていた。俺は目をそらさず、じっと男を見て言った。
「これはサヤとの約束なんだよ、、、。あいつが俺に「頼む」って言い残して寝ちゃったもんだから、俺はあいつが起きるまではこの子立派に育てなきゃいけないんだ。」
「、、、できるのか?お前に。」
「やってやるよ。こいつのパパは俺だ。」
俺はそう言い、息子の方をちらっと見やる。ぐずった顔は赤くなり、まつげは涙でまだ濡れていた。なんでか分からないが、改めて息子のことが愛しく思えた。俺が"父親"になる覚悟、目を腫らしている息子と正面から向き合う覚悟ができたからかもしれない。俺は玄関の扉を開けた。そして眩しい夏の日差しに包まれた。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
「かぅわいいぃ~~♡」
興奮した高い声が部屋に響く。まったくうるさい女だ。
「姉さん、びっくりするだろ」
俺は冷蔵庫をのぞきながらたしなめる。
「いいじゃない。あ、私飲まないよ、いま禁酒中。」
冷蔵庫から二本の缶ビールを取り出したところに声をかけられる。
「へいへい。」
俺はビールを一本しまうと、代わりに麦茶のポットを出す。
ここは俺の住むアパート。群馬の館まで行ってからもう一週間が経つ。結局、館で息子をひとりの力で育てると宣言した俺は息子と二人で暮らしている。しかし今晩、息子がこの家に来て初めての来客が来た。それが姉貴だった。
「あんたがサヤちゃんみたいな可愛い子と付き合ったときもびっくりしたけど、まさか今度はこんな可愛い子のお父さんになるとはねぇ~ホント、サヤちゃんの遺伝子に感謝ね。」
「まあそれはホントにそうだな。」
俺はひとつ姉貴をびっくりさせてやりたくなった。
「あら、あっさり認めるの」
「ああ。なんせサヤはAランクの血筋だからな。おかげでその子はサヤの血を強く継いで"A⁺ランク"だった。」
姉貴の顔が一気に青ざめていく。
「あんた...それ冗談よね...?」
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