第十二話 たしかな希望
嘘、ついてた。
サヤ、お前は最後にそう言ったのか?だとしたらやっぱりお前はAランクのお嬢さんで、あの赤ん坊がA⁺ランクってのもお前の産んだ子だからなのか?お前はAランクなのを自分では知っていて、ずっとそれを隠してたのか?俺に「Cランクだ」って嘘をついていて、赤ん坊が生まれたタイミングで、最後にそう言い残したのか?
お前、あの時言ってたよな。
――わたし、、、頑張ったから、、、あの子を、、、頼むね、、、
分娩室でサキが言った言葉を思い出す。
あの言葉、本気で言ってたんだよな。
いつの間にか俺は足を止め、下を向いていた。両手は握りこぶしをつくり、強い力をいれている。
お前は俺を選んでくれた。こんな俺を選んでくれた。今まではずっと、俺が俺以上に天然なお前のことを選んだと、そう思っていた。でも、違ったんだな。なんでなんだ?なんで俺だったんだよ、サヤ。俺はお前のことを全然知らないのか。俺の見ていたお前は、"偽り"だったのか?
俺は手から力を抜く。そして目をつぶり、天を仰いだ。
…もうサヤはいないのか。こんなこと考えたって意味ないのか。
その時。ふと脳内で、館で男から聞いた言葉が再生された。
――私は君に二つの選択肢を与えたい。
違う、、そうじゃない、、
――私の娘を生き返らせるためにこれからあの赤ん坊を“ベストプレイヤー”まで育てるか、今日この場で大金を受け取って赤ん坊を私たちに明け渡すか。
水槽の中で眠るサヤを見たじゃないか、、!
――娘はまだ死んでいない。
サヤはまだ死んでない!!
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
館の奥からあの初老の男が出てきた。俺の再びの来訪にも特段驚いた様子でもない。だだっぴろい玄関で、びっしょり汗をかき、膝に手をつき息を上げている俺を見て男は冷静に言った。
「どうした?忘れ物か?」
「ハァハァ、、違う、、、」
遠くで泣く赤ん坊の声がしていた。
「あいつ、、どうした、、」
「あいつ?赤ん坊のことか。」
俺は男を上目遣いでじっと見ている。
「君が帰ってからずっとあの調子だ。まぁ落ち着かんのだろう。いずれ泣き止、、、」
俺は靴を脱ぎ捨て、館にあがる。
「どうした?名残惜しいのか」
男は落ち着いた様子で俺の背中に声をかける。俺は無視して赤ん坊の泣く声のする部屋の方に向かう。俺が通された応接間のような部屋の横の部屋の扉を開く。
「ほ~ら熊ちゃんですよぉ~」
「おぎゃあああああ」
そこは書斎のような部屋だった。扉側の壁と最奥の壁には天井まで届く本棚が置かれていた。そして部屋の奥には大きな机があった。扉と反対側の壁にはこれまた大きな暖炉があり、その前に大きなガタイの男がこちらを背にして座っていた。赤ん坊の泣き声はその向こうからしていた。
男に近づく。手にはぬいぐるみを持っていた。そして男がなにやら一生懸命話しかけていたのは、やはり俺の赤ん坊だった。
「どけ」
「いてっ、お前!なにしにきた!」
俺がガタイの無駄にでかい男をはねのけるように赤ん坊をかかえると、また扉の方へ向かおうとした。すると初老の男が扉の前にいた。
「どういうつもりだ。」
男が聞いてきた。
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