第十話 決断

「、、、おむつはお前が変えたのか。」

「え?」

「一人で暮らしているんだろ?」

「あ、まあそうですね。」

「夜中でも突然ああやって泣き出したりしないのか。」

「あ、ああいや、ありますね。なかなか寝ない時は俺があやしてあげるんですけど、そうすると余計泣くんですよ。」

「、、、ストレスがたまるだろ。」


男は俺をじっと見つめたまま真顔で聞いてくる。その睨んでくるような目線に押され、俺は目をそらす。


「ストレス、、、正直まあ。」

「仕事はどうしてるんだ。」

「まだ出れてなくて、、。託児所を探してるんですけど、なかなか良い所が無くて、、。」


この赤ん坊をうちに連れて帰ってもう二週間になっていた。会社の上司には早く復帰するように言われていたが、なかなか赤ん坊を預ける場所が決まらずにいたのだ。


「どうしてだ、そんな施設なら見つかるだろ」

「いや、まあそうなんですが。やっぱりどこも預けるには環境が不安で、、。」


俺はおむつの不快がなくなりすっかり気持ちが落ち着いた様子の赤ん坊を見てそう言った。

しかし男は俺の真意を言い当てるように言った。


「金じゃないのか。」

「あっ、、。」


思わず言葉に詰まった。その通りだった。赤ん坊を預けるには金がかかり、そのあてになる金はうちにはなかった。


「やはりな。元々そんな金はなく、娘に家で見てもらおうとしか考えてなかったんだろう。」


これもその通りだった。


「できるだけ早く仕事に復帰したい、そうでないとお金がない。ただ、そうなると赤ん坊を預けないといけない、ただそんなお金はあるわけない。」


男は面白いように俺の内心を言い当てた。


「どうだ、違うか?」

「、、その通りです、、。」


俺は目線を落とし言う。俺のその態度を見てか、男は椅子に背もたれて言った。


「じゃあ話は決まりだな、その子は私が預かる。」


俺は息を飲んだ。顔を上げ、男の方を見る。俺が何か答えるのを待っているような顔をしていた。俺は迷った。ただ、これ以上考えても答えは変わらない気がして、諦めて小さな声で言った。


「はい、よろしくおねがいします、、、、。」






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