第七話 二つの選択

男はまったくふざけることなく、真剣に俺を見てそう言い放った。


は、、?ろどうめい、、?何を言ってんだ。サヤが失踪した娘?


そんなはずないと思いながらも俺には完全に否定できない理由があった。サヤは親戚がいなかった。幼い時から養護施設で育ち、成人すると独り立ちし、社会人として働いていた。だから、結婚の時も俺の両親にはもちろんサヤのことを紹介したが、俺はサヤの両親に会ったことはない。いつも笑顔だったサヤも時折すごく悲しそうな顔を見せることがあった。小さいころから孤独を感じていたのかもしれない。だからこそ俺はサヤと家族になりたいと思った。ろくでもない俺が、頑張ってこの子を幸せにしないといけないと強く思った。


「娘は川島かわしま沙夜さやという名前を名乗っていたそうだな。さらに当時の私は家族と仲が悪かった。まさか日本にいるとも思わなかったし、家族に頼んで捜索願を出すなんてことはしなかった。」


男はまた俺の近くまで歩いてきながらそう言った。


「私はすぐにでも娘に会いたかった。ただ取り組んでいた研究の成果が出るまであと一歩ということもあり、その研究を終えてから来日することにした。それがまさか娘がこんなことになるとは、、。」


男は言葉を詰まらせた。その表情は悲しみというより怒りに近かった。見ると両手で握りこぶしをつくっている。俺は恐る恐る聞いた。


「病院でサヤをさらったのはあなたなんだな。」

「あの子はサヤではない、メイだ。そしてメイを死なせたのは君だ!」


男はその時はじめて感情をあらわにした。俺を睨んで怒鳴った。


「違う!しょうがなかったんだ、Cランクの俺たちにはあんな病院しか選択肢はなかったんだ!」

「はっはっはっは!“Cランクの俺たち”?笑わせるな!」

「な、なにがおかしい、、!」


男は俺に一歩詰め寄るとにやりと笑って言った。


「娘はAランクだ。お前のようなCランクと一緒にするな。」


なっ、、。


俺は固まった。いよいよサヤがこの男の娘であることが現実味を帯びてくるようだった。今まで家族が明らかでなかったサヤが失踪した露堂メイなら、あの巨大企業「露堂製薬」を作り上げた露堂家の血をひく者なら、そのランクがAであり、生まれてきた赤ん坊がA⁺ランクであることも理解ができる。もし本当にサヤがAランクだったのなら、Cランクの俺とはまったくもって違う人生を送るはずだったのだ。あんな劣悪な病院でサヤが子供を産む必要はなかったのだ。


俺がサヤを殺したのか、本当に、、、。


絶望感が胸に広がった。俺は膝から崩れ落ちていた。


男は立ったまま言った。


「 …西本茂雄にしもとしげお。大事な話はここからだ。私は君に二つの選択肢を与えたい。」


選択肢、、?これほど惨めな俺になんの選択肢を与えるってんだ。


絶望感に苛まれた俺は、頭を床につけたままうずくまるように動かなかった。

それを見て男は続けた。


「あの赤ん坊の親権は君にある。これからあの赤ん坊を“ベストプレイヤー”まで育てるか、今日この場で大金を受け取って赤ん坊を私たちに明け渡すか。」


男は淡々と述べた。俺はその言葉の中で幾つかが気になってゆっくり顔を上げながら聞いた。


「娘を生き返らせる、、、?」





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