第五話 謎の封筒

「遺体が、、盗まれた?!」


俺はすぐさまその言葉を反芻はんすうした。


「そ、そうなんですぅ。我々が先程、あらかじめ連絡していた通り、奥様のサヤさんのご遺体をお預かりに参りましたところ、突然白煙に包まれ、眠らされたんです!目が覚めるといたはずのサヤさんがいなくなっており、スタッフの者が猛スピードで立ち去る黒のバンを目撃したのみで、そのまま見失ってしまいました。」


な、なにを言っているんだ。


俺は頑張って話を頭で追いかけながらも、はてなマークで埋まるばかりだった。


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



ゴポッ…ゴポポポォ…


真っ暗な部屋の唯一の光源のその水槽から水泡の音が聞こえてくる。水槽は円柱の形をしていて、中はうす緑の液体で満たされていた。そして、その水槽の中で、一定の間隔で水泡を吐き出していたのは俺の良く知る人物だった。


「サヤ、、、。」


水槽の中には裸のサヤが眠るかのように浮かんでいた。うずくまるように両膝を抱えている。長い髪が逆立って水槽の中で揺らめいていた。


俺はその巨大な水槽を目の前にして立ちすくんでいた。


どうしてサヤがこんなところに、、?


俺がいまこうしてサヤと対峙することになったのは5日前に家に届いた封筒がきっかけだった。葬儀屋にサヤが何者かに連れ去られたと聞いた日から2週間が経っていた。結局、サヤがいなければ葬儀自体執り行えないということで葬儀屋とは一旦話を白紙に戻し、俺は途方に暮れながらもその2日後からは赤ん坊と二人で家で暮らしていた。チラシに混ざってアパートのポストに投函されていたその黒い封筒には手紙と1枚の小さな地図が入っていた。手紙には「自分たちが西本沙夜の遺体を保有している」「話があるので地図で示した場所まで来い」「その時に赤ん坊も一緒に連れてこい」と書いてあった。そして同封された小さな地図には全く知らない駅名が書かれてあり、肝心の目的地はさらに人里離れた山奥を差しているらしかった。俺は調べた。その駅はここ群馬県にあった。そこまで調べて俺はふと我に返った。これはなにかのいたずらか?と。でも、確かめずにはいられなかった。地図を頼りに駅からここまで山を登ってきた。もちろん赤ん坊を連れて。道中、こんな山奥に建物なんてあるもんかと思ったが、やがて大きな館を見つけた。その前の門で俺を待つ者たちがいた。事情を話すと中に入れてもらえた。ただ、俺の質問には何も答えなかった。やがてエレベーターに乗らされ、しばらく降りるとこの部屋にたどり着いた。壁や床は鉄板をつなぎ合わせたような見てくれで、天井には太い細い関わらず幾多ものパイプが張り巡らされていた。なにかの研究室のようだった。


「突然の招待にも関わらずここまで来てくれてありがとう。」


急に後ろから声が聞こえ、俺は驚き振り返る。いつの間にかエレベーターが開き、二人の男と、その2人を引きつれるようにやや前を歩きこちらまで向かってくる男がいた。


「あ、あなたは、、?」


かすれた声で俺が聞く。顔が見える距離まで近づいたところで男たちは立ち止まった。先頭の初老の男は俺のうしろに目をやり、また俺を見ながら真顔で言った。


「私はその子の父親の露堂零治ろどうれいじだ。」


ろどう、、、?


俺には「ろどう」と聞いて思い浮かぶものが一つだけあった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る